牛ふん堆肥ペレットへの尿素混合による土壌からの一酸化二窒素発生低減

要約

牛ふん堆肥ペレットへ尿素を混合すると、混合なしに比べ窒素施用量あたりの一酸化二窒素発生が低減し、微量の石灰窒素の併用でさらに低減する。尿素混合または尿素石灰窒素混合の堆肥ペレットで栽培したコマツナの収量は化学肥料施用時と同等である。

  • キーワード:堆肥ペレット、一酸化二窒素、尿素、石灰窒素、牛ふん堆肥
  • 担当:九州沖縄農業研究センター・生産環境研究領域・土壌肥料グループ
  • 代表連絡先:電話029-838-8877
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

堆肥ペレットは取り扱い性、保管性、機械散布適性など優れる利点があり、堆肥の広域流通促進への貢献が期待されている。しかし、堆肥ペレット施用後に、主要な温室効果ガスの一つである一酸化二窒素(N2O)が、通常のペレット化していない堆肥や化学肥料の施用後と比べ、多量に発生することが問題となっている。この多量発生は主に堆肥ペレット内部の脱窒によるものと考えられている。また、近年、資源の有効利用や施肥コスト削減の観点から、堆肥と化学肥料を混合して肥料価値の高い有機質肥料として活用する取り組みがなされている。そこで本研究では、施用後のN2O発生低減と肥料価値が高い堆肥ペレットの利用技術の開発を目指し、速効性の化学肥料である尿素等を混合した牛ふん堆肥ペレットを用いて、N2O発生低減効果および作物生産性について明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 牛ふん堆肥と尿素を重量比8:2で混合して成型した堆肥ペレット(以下、「尿素ペレット」)、ならびにN2O抑制効果を期待して、尿素ペレットに重量比1%の石灰窒素をさらに混合して成型した堆肥ペレット(以下、「LN尿素ペレット」)を作成すると、全窒素含量(乾物%)は約12%で、混合なしの堆肥ペレット(以下、「牛ふんペレット」)よりも約10%高く、全窒素のうち約9割が尿素態窒素である(表1)。
  • 圃場試験および室内培養試験において、尿素ペレットを施用すると、牛ふんペレットと比べ、施用初期(1~5日後)のN2Oの多量発生が低減する(図1、室内試験の発生推移は略)。また、圃場試験の尿素ペレット区では、尿素ペレットに含まれる尿素と牛ふんペレットを別々に施用した処理区(尿素・ペレット併用区)と比較して、施用直後(1日後)の発生ピークがほとんど確認されないことから(図1)、ペレットへの尿素混合がペレット内部の脱窒を抑制し、施用初期のN2O発生を低減すると考えられる。
  • 窒素施用量あたりの積算N2O発生量は、圃場試験および室内培養試験において、牛ふんペレットと比べ尿素ペレットでそれぞれ76、59%低減する(表2)。LN尿素ペレットの窒素施用量あたりのN2O発生量は尿素ペレットよりも低い(表2)。
  • 圃場試験において、同じ窒素施用量で、牛ふんペレット、尿素ペレット、LN尿素ペレット、化学肥料(尿素)を用いてコマツナを栽培すると、収量、窒素吸収量は牛ふんペレット区で劣り、その他全ての区では同等となる(表3)。

成果の活用面・留意点

  • 本成果は、堆肥と化学肥料を混合して製造した粒状有機質肥料を土壌へ施用した際のN2O発生を推定する上で参考となる知見である。
  • 本成果の尿素ペレット、LN尿素ペレットは、研究用に作製され、肥料取締法の公定規格である混合堆肥複合肥料には該当しない。
  • ペレット成型のため、水分調整した堆肥に尿素を混合する場合、アンモニア揮散を防ぐため、成型後は速やかに乾燥する必要がある。また、堆肥への石灰窒素の混合割合が高いと、有機物分解とそれに伴う養分供給を阻害する恐れがあるため、注意する。

具体的データ

表1 供試堆肥ペレットの理化学性;表2 コマツナ栽培圃場試験および室内培養試験における積算N2O-N発生量;図1 コマツナ栽培圃場試験におけるN2O-N発生推移;表3 圃場試験におけるコマツナ収量、窒素吸収量

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(科研費)
  • 研究期間:2015年度
  • 研究担当者:山根剛、駒田充生、古賀伸久、西村誠一、加藤直人
  • 発表論文等:山根ら(2017)土肥誌、88(5):413-419