Lactbacillus diolivoransを含む乳酸菌の添加は予乾ロールベールサイレージの変敗を抑制する

要約

予乾により水分が低下したイタリアンライグラスロールベールサイレージにおいて、カビの発生を抑制する機作をもつ乳酸菌株を含む乳酸菌製剤を調製時に添加することで、貯蔵中のカビの発生が抑制され、飼料利用可能な乾物の回収率が改善される。

  • キーワード:ロールベールサイレージ、予乾、乳酸菌添加、カビ抑制
  • 担当:九州沖縄農業研究センター・畜産草地研究領域・飼料生産グループ
  • 代表連絡先:電話096-242-7682
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

予乾時の気象条件が比較的適している九州地域の生産現場ではハンドリングの容易さもあって、ロールベールサイレージ調製は適水分域とされる50~60%より低水分化傾向にあり、給与のため開封すると、カビが繁殖している、いわゆるスポイレージが多かったといった事例がしばしば見受けられる。そこで、カビの生育を抑制する機作をもつ乳酸菌(L. diolivorans)株を含む乳酸菌製剤によるカビの発生抑制効果を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 乳酸菌製剤は初期増殖に優れるLactococcus lactis SBS0001、低pH下での増殖に優れるL. paracasei SBS0003、およびカビの生育を抑制する機作を持つL. diolivorans SBS0007に繊維分解酵素を混合したものである。
  • 予乾日数を変えて調製したイタリアンライグラスサイレージにおいて、約5か月貯蔵後では予乾1日目の添加区は対照区と比較して、pHが低く、乳酸含量が高く、カビ・酵母菌数が少ない。低水分となった予乾2日目については、処理区間に差が認められない。被雨後に収穫した予乾4日目については、発酵品質に違いは見られないが、飼料利用可能な乾物の回収率(ADMR)は添加区が高い(表1)。
  • 開封後の好気的変敗の発生状況では、変敗の指標となる室温+5°C到達時間が予乾1日目では、対照区は100時間後に+5°Cに達したのに対し、添加区は試験期間(120時間)に発熱が認められない。予乾2日目では両区とも100時間後に+5°Cに達する。予乾4日目では対照区は115時間後に+5°Cに達したが、添加区は試験期間中に発熱がみられない(図1)。
  • 貯蔵6~10か月のサイレージについて生産者の給与条件下で、生産者目線での廃棄率は、予乾1日目では添加区の廃棄率が低く、ADMRが高い。一方、予乾2日目、4日目では廃棄率やADMRに差は認められない(図2)。
  • 乳酸菌の生育が抑制される水分40%以下では変敗抑制効果は発揮されないが、水分40%以上の条件下では改善効果がある。

普及のための参考情報

  • 普及対象:畜産農家、コントラクター等牧草ロールベールサイレージ生産者
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:全国・予乾収穫体系の1割
  • その他:本成果が得られた乳酸菌製剤は雪印種苗株式会社より商品名「サイマスター3」として平成30年4月より販売されている。

具体的データ

表1. 貯蔵5か月におけるイタリアンライグラスサイレージの発酵品質、廃棄率、回収率およびカビ・酵母菌数,図1. 添加剤の添加が開封後の好気的変敗に及ぼす影響,図2. 生産者利用期間中におけるイタリアンライグラスサイレージの廃棄率と回収率

その他

  • 予算区分:交付金、その他外部資金(資金提供型共同研究)
  • 研究期間:2017年度
  • 研究担当者:服部育男、本間満(雪印種苗(株))、加藤直樹、北村亨(雪印種苗(株))、宮川竜二
  • 発表論文等:服部ら(2019)日本草地学会誌、65(1):15-19