堆肥化処理から発生する臭気を臭気指数16以下に低減する高度堆肥脱臭システム

要約

牛ふんの堆肥化過程で発生する高濃度臭気を低減化する堆肥脱臭に、1%濃度の苦土石灰懸濁液を噴霧する2次脱臭処理を組み合わせると、臭気指数28の元臭が脱臭処理後に12と嗅覚に感じられる臭気の強さは約6割低下し、臭気指数による悪臭規制が導入されている地域での脱臭に利用できる。

  • キーワード:牛ふん、堆肥化、臭気指数、堆肥脱臭、噴霧
  • 担当:九州沖縄農業研究センター・畜産草地研究領域・畜産環境・乳牛グループ
  • 代表連絡先:電話096-242-7682
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

悪臭防止法による環境中の悪臭規制には、法律が定める悪臭物質(特定悪臭物質)による規制と、人の嗅覚を用いて測定される臭気指数による規制の2種類があり、一定地域にいずれか一方の規制が適用される。それぞれの規制では、嗅覚に感じられる臭いの強さ(臭気強度)を0(無臭)から5(強烈な臭い)までの6段階で示す尺度(6段階臭気強度表示法)に基づき、この中の臭気強度2.5、3.0、3.5のいずれかに相当する特定悪臭物質の濃度または臭気指数の値が、具体的な規制基準値となる。しかしながら、特定悪臭物質による規制では、それ以外の悪臭物質や複合臭気への対応が不十分な場合があり、より厳しい規制である臭気指数による規制を導入する市町村が近年増加している。
家畜排せつ物の堆肥化においては、アンモニアを主成分とする極めて高濃度の臭気が発生することから、高濃度臭気を低コストに脱臭し、地域住民の快適な生活環境の確保や環境問題の解決に努めることが重要である。そこで、脱臭と共に窒素を多く含有する堆肥生産を行う堆肥脱臭(2002年度普及成果情報http://www.naro.affrc.go.jp/project/results/laboratory/karc/2002/konarc02-14.html)で除去できなかった臭気を、酸・アルカリ溶液噴霧で除去する2次脱臭処理技術を開発し、堆肥化過程から発生する臭気を養牛業における臭気強度3.0に相当する臭気指数16以下とするための高度堆肥脱臭システムを構築する。

成果の内容・特徴

  • 本システムは、1次脱臭処理の堆肥脱臭と2次脱臭処理の噴霧装置によって構成される。1回の堆肥化処理量が80t程度の施設で、2次脱臭用の噴霧装置が1台必要である。噴霧装置は、溶液をタンクから電動ポンプでファンに圧送し送風空気に噴霧する外置き式で、30万円程度の価格で市販されている。噴霧装置は首振り式で、堆肥脱臭槽の上部空間に向かって噴霧する様に設置する(図1)。
  • 1次脱臭処理の堆肥脱臭槽への導入空気の官能試験による平均臭気指数28.1は、1次脱臭処理によって平均臭気指数13.6まで有意(p<0.05)に低下する。臭気指数は、悪臭空気を無臭の空気で段階的に希釈していき、臭いが感じられなくなった時点の希釈倍数(臭気濃度)の対数を10倍したもので、人間の感覚量に近い尺度である。1次脱臭によって嗅覚に感じられる臭気の強さは、元臭から約52%低下する。
  • 堆肥脱臭と噴霧脱臭を組み合わせた高度堆肥脱臭システムにより、2次脱臭で0.5%乳酸水溶液を噴霧する場合12.4、1%苦土石灰懸濁液を噴霧する場合11.8まで有意(p<0.05)に低下する。嗅覚に感じられる臭気の強さは、元臭から前者で56%、後者で58%低下する。
  • 1次脱臭の脱臭率が不足し堆肥脱臭処理後の臭気の臭気指数が16以上で排出される場合(平均17.3)、2次脱臭によって0.5%乳酸水溶液噴霧では11.6、1%苦土石灰懸濁液噴霧では9.7と、いずれも有意(p<0.05)に低下し16以下となる。両者の内では、アルカリ性の苦土石灰懸濁液を噴霧する方が効果的である(図2)。
  • 噴霧資材価格はL-乳酸(50%濃度)350円/L、苦土石灰360円/20kg程度で、噴霧装置1台当たりの処理風量1.28m3/sに対する希釈溶液の噴霧量は約9kg/hである。1日1台当たり8h噴霧を行った場合の2次脱臭処理の年間経費は、0.5%乳酸水溶液噴霧で191千円、1%苦土石灰懸濁液噴霧で103千円程度となり、苦土石灰懸濁液噴霧の方が安価である(表1)。

普及のための参考情報

  • 普及対象:畜産農家、堆肥生産者、普及指導機関
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:全国・熊本地域で1件導入済み、鹿児島地域で導入予定。
  • その他:苦土石灰懸濁液の使用後の残液には苦土石灰の粉末が残るので、再度水に懸濁させて利用する。

具体的データ

図1 高度堆肥脱臭システムの概要,図2 堆肥脱臭処理後の臭気の臭気強度が3.0(臭気指数16)以上の場合,表1 乳酸水溶液、苦土石灰懸濁液を噴霧する2次脱臭の経費,

その他

  • 予算区分:交付金、委託プロ(生産システム)
  • 研究期間:2015~2018年度
  • 研究担当者:田中章浩、古橋賢一、黒田和孝
  • 発表論文等:田中ら(2018)におい・かおり環境学会誌、49(3):168-173