イチゴ苗表面の病害虫を防除できる蒸熱処理装置とその利用マニュアル

要約

水蒸気(蒸熱)によりイチゴ苗の表面に寄生した病害虫を防除するための装置であり、ポータブル型と大型の2種類のタイプがある。本装置により、イチゴ苗による施設内への防除困難な病害虫の持ち込みを防ぐことができる。

  • キーワード:イチゴ苗、ナミハダニ、うどんこ病、物理的防除、蒸熱処理
  • 担当:九州沖縄農業研究センター園芸研究領域イチゴ栽培グループ
  • 代表連絡先:096-242-7682
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

イチゴ苗によって病害虫が施設内に持ち込まれると、その後の効果的な防除は難しい。また、病害虫の薬剤抵抗性の発達により、化学農薬による防除効果も低くなっている。そこで、一定温度以上の水蒸気(蒸熱)をイチゴ苗に処理することで病害虫を防除する装置を、蒸熱処理装置メーカーとの共同研究により開発する。また、蒸熱による防除は、イチゴ苗の耐熱性と病害虫の耐熱性の差を利用して行うため、誤った操作を行うと苗にダメージが生じる恐れがある。そのため、正しい蒸熱処理の方法と防除方法を示すマニュアルを作成して普及を進める。

成果の内容・特徴

  • 小型の既存のプレハブ冷蔵庫に後から設置できるポータブル型装置(本体:54×50×140cm、約30kg)と大型の冷蔵庫本体に恒久的に据え付ける装置の2種類の蒸熱処理防除装置がある。それぞれの装置の内容は表1に示すとおりである。
  • 50°C、10分間の蒸熱処理でナミハダニの全発育ステージの90%以上が死亡し、うどんこ病を100%防除できる。より高い温度では、イチゴ苗の葉に大きなヤケが生じるようになり、さらに高い温度では苗が枯死する(図1)。防除マニュアルは、蒸熱処理した苗の定植後の果実生産に悪影響がないことを最優先に考慮して、作成している。
  • マニュアルは、生産者向けに装置の使い方や実際の防除の事例等を解説する第1部と、農業技術者向けに蒸熱処理の原理や防除効果の具体的なデータ等を詳述した第2部との2部構成になっている。マニュアルはインターネットでダウンロードできる(図2、URLは図2の当該QRコードあるいは発表論文等を参照)。
  • マニュアルでは、蒸熱処理した苗の果実生産能力を検証した結果についても記載している。マニュアルで推奨する蒸熱処理条件(50°C、10分間)では、葉やけの割合は株全体の葉面積の20%未満となり、ほとんど年内収量は減少しないことを確認している。

普及のための参考情報

  • 普及対象:イチゴ生産者、都道府県試験研究機関および普及指導機関
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:東海以南の平地でポット育苗をする地域
  • その他:イチゴ苗の耐熱性は育苗時期・期間、品種によっても異なる。導入にあたっては、300株程度から始め、苗の耐熱性について確認することが望ましい。利用マニュアルの内容に関する問い合わせ先は農研機構九州沖縄研究センター、商品に関する問い合わせ先はエモテント・アグリ(株)である。

具体的データ

表1 蒸熱処理装置の内容,図1 10分間の蒸熱処理でのイチゴ苗と病害虫の耐熱性の関係,図2 ポータブル型蒸熱処理防除装置を用いたイチゴ苗の病害虫防除マニュアル(表紙)とダウンロードのQRコード

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(イノベ創出強化)
  • 研究期間:2009~2018年度
  • 研究担当者:高山智光、壇和弘、日高功太、今村仁、沖村誠、前原重信・脇田修一(FTH)、伏原肇(エモテント・アグリ)、海老原要道(三好アグリテック)、柳田裕紹(福岡農林総試)、稲田稔・菖蒲信一郎(佐賀農試研セ)、田尻一裕(熊本農研セ)
  • 発表論文等:
    • 農研機構(2018)「九州を中心とした暖地向けイチゴ苗蒸熱処理防除マニュアル2017」
    • http://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/pub2016_or_later/pamphlet/tech-pamph/079247.html(2018年1月19日)
    • 高山ら「植物苗の病害虫防除方法及び設備」特許第5751476号(2015年5月29日)
    • 高山ら「植物苗の病害虫防除装置」特許第5481670号(2014年2月28日)
    • 高山ら「植物苗の病害虫防除設備」特許第5413615号(2013年11月22日)