フリーバーン牛舎から排出されるふん尿を湿式メタン発酵に適用するための処理システム

要約

畜舎から排出される敷料を含んだ乳牛ふん尿を、一度液体に溶かしてから固液分離し、固形分を堆肥化、液分を湿式メタン発酵で処理するシステムである。分離後の液分をふん尿を溶かすための液体として循環利用することにより、有機物濃度が高まり、メタン発生量が増加する。

  • キーワード:乳牛ふん尿、メタン発酵、堆肥化、固液分離、バイオマス
  • 担当:九州沖縄農業研究センター・畜産草地研究領域・畜産環境・乳牛グループ
  • 代表連絡先:電話096-242-7682
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

食料・農業・農村基本計画およびバイオマス活用推進基本計画では、農業経営の改善や農村の活性化のために、地域の実情に応じた多様なバイオマスを混合利用して、再生可能エネルギーを地産地消することを推進している。そのため、食品残渣等と共に乳牛ふん尿をメタン発酵に導入して、バイオガスを活用する事例が増加している。しかし、近年の経営規模拡大に伴い増加しているフリーバーン牛舎からは、流動性はないが水分が高く、そのまま堆積しても堆肥化が始まらない半固形状ふん尿が排出される。半固形状ふん尿を湿式メタン発酵に直接導入すると、敷料であるオガクズが配管閉塞・発酵槽内での沈殿といった問題を引き起こす。そこで、本研究では発酵槽投入前に固液分離を行い、オガクズ等の粗大有機物を効率的に除去すると共に堆肥化で処理し、液分をメタン発酵することで、半固形状ふん尿を湿式メタン発酵に適用できる処理システムを開発する。

成果の内容・特徴

  • 本システムは、高粘性流体においても攪拌性能が高いプロペラ式水中攪拌装置を備えた受入・攪拌槽、スクリュープレス型固液分離機、堆肥化施設、メタン発酵槽によって構成される(図1)。システム立ち上げ時には、スラリー状ふん尿の搾汁液、パーラー排水や豚尿等の液体に、半固形状ふん尿を受入・攪拌槽内で溶かしてから固液分離を行うが、その後は固液分離後の液分をふん尿を溶かすための液として循環利用する。
  • スリット間隔0.8mmのウェッジワイヤースクリーンを用いたスクリュープレス機では、固形分側にオガクズを96%回収できる。敷料を含まないスラリー状のふん尿を固液分離した場合と比較して、半固形状ふん尿を処理する場合は単位時間当たりの処理量は30%低下するが、オガクズ添加などの水分調整なしに堆肥化できる含水率(73.0%以下)まで低下できる(表1)。
  • 固液分離による堆肥化材料の水分調整経費は、固液分離せずにオガクズを副資材として利用した場合と比較し、半固形状ふん尿で884円t-1、スラリー状ふん尿で3,370円t-1削減できる(表1)。
  • 固液分離により、堆肥化材料となる固形分中のK2O、Na2O濃度を、生ふん尿と比較して、乾物当たりそれぞれ0.90ポイント、0.46ポイント削減でき(表2)、水分調整のための副資材を添加せずに塩類濃度を低下させた良質堆肥が生産できる。
  • メタン発酵で処理する固液分離後の液分は、発酵槽導入の前に循環利用することで、有機物濃度を向上させることができる。有機物濃度上昇率と同等に、発酵槽容積当たりのメタンガス発生量を増加できる(表3)。

普及のための参考情報

  • 普及対象:畜産農家、メタン発酵施設設計・運営者、普及指導機関、行政機関
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:本州以南・乳牛対象メタン発酵処理施設年間1施設(熊本地域の堆肥化・メタン発酵複合処理施設1件導入、1件導入予定)。
  • その他:定期的に畜舎より排出されずに、長期間踏み固められた固形状ふん尿は、受入・攪拌槽において短時間で懸濁化させることが難しいため、堆肥化施設で直接処理する必要がある。

具体的データ

図1 半固形状乳牛ふん尿のメタン発酵適用システム,表1 半固形状ふん尿の固液分離特性および水分調整経費,表2 固液分離によるふん尿中の塩類等の減少*1,表3 固液分離後の液分の循環利用が有機物濃度やバイオガス発生量等に与える影響

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2016~2018年度
  • 研究担当者:古橋賢一、田中章浩、黒田和孝
  • 発表論文等:古橋ら(2019)農業施設、50(1):16-23