トビイロウンカのイミダクロプリド抵抗性は優性遺伝する

要約

トビイロウンカのイミダクロプリド抵抗性の遺伝様式は、伴性遺伝の無い、主導遺伝子支配のほぼ完全優性である。代謝酵素阻害剤による検証から、本抵抗性には解毒分解酵素チトクロムP450の高発現が関与すると示唆される。

  • キーワード:Nilaparvata lugens、半数致死薬量(LD50値)、メンデル遺伝、ネオニコチノイド剤、ピペロニルブトキシド
  • 担当:九州沖縄研究センター・生産環境研究領域・虫害グループ
  • 代表連絡先:電話096-242-1150
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

ネオニコチノイド剤の一つ、イミダクロプリドに対するトビイロウンカの薬剤抵抗性発達が2005年以降アジア各地で報告され、それに伴い水稲への被害が拡大している。トビイロウンカは発生地のベトナム北部から中国南部を経て、毎年梅雨期に日本に飛来し、被害をもたらす。最近で被害の大きかった2013年には、西日本での被害総額は105億円に達している。そのため、薬剤抵抗性発達のメカニズムを解明し、日本だけでなく、飛来源のベトナムや中国での防除対策に活用することが重要である。
本研究では、人為的に薬剤選択したイミダクロプリド抵抗性系統と、室内で継代飼育している感受性系統との交配実験から抵抗性遺伝様式を明らかにする。また、代謝酵素阻害剤を処理した抵抗性個体が感受性を回復するか検証し、抵抗性の要因を解明する。

成果の内容・特徴

  • ベトナム個体群から薬剤選択したイミダクロプリド抵抗性系統(VR系統)の半数致死薬量(LD50値)は、選択9世代目以降からコントロール系統(VC系統)より上昇し始め、25世代目では選択前の約8倍となり(図1)、強い抵抗性系統が得られている。
  • VR系統(25世代目)と感受性系統(1989年採集出雲系統:S系統)の正逆交配F1の薬量(log変換値)―死亡率(プロビット変換値)の回帰直線は、いずれもVR系統にほぼ等しく(図2)、優性度(D)は約0.81となる。以上から、イミダクロプリド抵抗性の遺伝様式は、伴性遺伝は無く、ほぼ完全優性である。
  • 正逆交配F1の次世代を交配させたF2の回帰曲線は、メンデル遺伝モデルにおける、完全優性で主導遺伝子支配の予測とほぼ一致する(図3)。
  • VR系統とS系統の正逆交配F1と、各親系統の戻し交配の回帰曲線は、メンデル遺伝モデルにおける、完全優性で主導遺伝子支配の予測とほぼ一致する(図3)。
  • 解毒分解酵素(チトクロムP450)を主に阻害する代謝酵素阻害剤ピペロニルブトキシドで処理したVR及びVC系統の半数致死薬量(LD50値)は同程度まで低下し(表1)、感受性が回復したことから、チトクロムP450による解毒分解活性の増大がイミダクロプリド抵抗性の主要因であると示唆される。この結果は、Bass et al (2011) Insect Mol. Biol. 20:763-773の報告に一致する。
  • フィリピン個体群から選択したイミダクロプリド抵抗性系統とS系統の交配実験およびピペロニルブトキシド処理実験も同様の結果となる(データ略)。

成果の活用面・留意点

  • 優性度(D)はStone(1968)Bull. World Health Organ. 38:325-326の式により算出され、D = -1(完全劣性)、-1 < D < 0(不完全劣性)、0 < D < 1(不完全優性)、D = 1(完全優性)を示す。
  • 抵抗性遺伝様式の情報は、抵抗性拡散モデル等を利用した抵抗性を発達させない薬剤管理法の策定に活用できる。

具体的データ

図1 ベトナム抵抗性とコントロール系統のLD50値,図2 選択系統とコントロール系統とF1の回帰直線,図3 抵抗性系統、感受性系統、F2および戻し交配の回帰曲線,表1 VRとVC系統(13世代)のイミダクロプリド感受性(LD50値)へのPBO処理効果

その他

  • 予算区分:交付金、委託プロ(次世代ゲノム)
  • 研究期間:2014~2018年度
  • 研究担当者:真田幸代、藤井智久、松村正哉
  • 発表論文等:Sanada-Morimura S. et al. (2019) Pest Manag. Sci. 75(8):2271-2277