太陽熱土壌消毒を想定した高地温条件下における土壌有機態窒素の無機化促進

要約

太陽熱土壌消毒を想定される45°Cないし60°Cの高い温度で土壌を培養すると、土壌有機態窒素の無機化が促進し、無機態窒素が生じる。培養後土壌の無機態窒素含量は、培養温度が高いほど、培養期間が長いほど高い。

  • キーワード:太陽熱土壌消毒、土壌有機物、窒素無機化、数値モデル
  • 担当:九州沖縄農業研究センター・生産環境研究領域・土壌肥料グループ
  • 代表連絡先:電話096-242-1150
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

土壌表面をフィルム被覆し、日射エネルギーで地温を高めることで消毒効果を得る「太陽熱土壌消毒」(以下、太陽熱消毒)は、設備投資が不要で、農薬を用いない手法であり、臭化メチルによる土壌くん蒸の代替技術の一つとしても期待される。太陽熱消毒中の作土は50°Cを超える極めて高い地温に到達することから、作物病原体以外にも、土壌中の養分動態を司る土壌微生物の活動に影響し、土壌有機物の分解特性が変化すると考えられる。土壌有機物が分解すると、有機物中の窒素の一部は作物が利用しやすい無機態窒素に変化するが、太陽熱消毒中に想定される高い培養温度条件下における無機態窒素の発生量(以下、土壌窒素無機化量)を調べた報告は極めて少ない。そこで、本研究では高地温条件下における土壌窒素無機化量と、それに及ぼす培養温度および期間の影響を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 消毒中の地温をもとに培養温度45、60°Cで黒ボク土を培養すると、培養温度30°Cのときに比べて消毒後土壌の無機態窒素含量が増加する。土壌有機物を分解する微生物の一部は、高い培養温度でも活動すると考えられ、45、60°Cでの土壌の無機態窒素含量は少なくとも数週間は頭打ちになることなく増加し続ける(図1(a))。なお、60°Cの培養では硝化が強く抑制され、アンモニウム態の無機態窒素が蓄積する(データ略)。
  • 同様の現象は、黒ボク土3点、灰色低地土2点でも確認されている。土壌窒素無機化量と培養温度、培養期間との関係を数値モデルでフィッティングすると、30、45、60°C以外で培養した時の土壌窒素無機化量(図1(b))や、太陽熱消毒を行う圃場における作土中の土壌窒素無機化量(図2)が推定できる。
  • 培養温度を30°Cから45°Cに高めると土壌窒素無機化量が増加すること、また、培養温度30°Cでの土壌窒素無機化量が多い土壌では培養温度45°Cでの土壌窒素無機化量が多い傾向にあることは、土壌25点で確認されている(図3)。

成果の活用面・留意点

  • 圃場では地温が変動することから、作土の地温を実測もしくは推定する必要がある。
  • 太陽熱消毒後の基肥窒素量は現状でも控え目にすることが推奨されている。今後、様々な土壌での数値モデルの検証が必要であるが、その量を圃場ごとの土壌特性や地温条件に応じて調整する場合に参考になる。

具体的データ

図1 培養温度および期間と土壌窒素無機化量の関係(a)およびそのモデルフィッティング(b),図2 茨城県の淡色黒ボク土(図1の土壌を採取した)畑圃場における太陽熱消毒中の深さ5cmの地温推移(a)と作土の無機態窒素含量の試算結果(b),図3 土壌25点の土壌窒素無機化量(培養温度および期間が45°Cで21日間と30°Cで28日間)

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(イノベ創出強化)
  • 研究期間:2012~2018年度
  • 研究担当者:井原啓貴
  • 発表論文等:井原ら(2018)土肥誌、89(2):136-145