圃場単位の生育診断を効率的に行うためのドローンを利用した広域リモートセンシング技術

要約

マルチスペクトルカメラを搭載した汎用型ドローンを利用して、高度100mから100haの広域撮影を行った場合、有効撮影能率は高度30mからの方法に比べて約10倍になる。マッピングソフトPix4D Fieldsを利用することでNDVI解析時間をPix4D Mapper Proの約1/10に短縮できる。

  • キーワード:ドローン、リモートセンシング、空撮技術、生育診断
  • 担当:九州沖縄農業研究センター・水田作研究領域・雑草・土壌管理グループ
  • 代表連絡先:電話 096-242-7682
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

衛星画像を利用した商用リモートセンシングは、広範囲の状況把握には適しているが雲の影響を受けやすく、適時のデータ取得が難しい。一方、ドローンを利用したリモートセンシングは雲の影響を受けることは無いものの、すでに商用利用されている高度30mからの空撮では広範囲のデータ取得に時間がかかり、今後の大規模化には対応が難しい。そこで、本研究では広域での圃場単位の生育診断を効率的に行うために、高度100m以上からのマルチスペクトルカメラを搭載した汎用型ドローンによる空撮と高速マッピングソフトを活用し、商用利用可能な広域リモートセンシング技術を開発する。

成果の内容・特徴

  • 撮影にはマルチスペクトルカメラを搭載した汎用型ドローンを使用する(図1 はParrot SequoiaとDJI Phantom 4 proの組み合わせ)。フライトアプリGS Proで撮影対象範囲を設定し(図2(A))、自律飛行で撮影を行う。また、マルチスペクトルカメラMicaSense RedEdgeを利用する場合は、産業用ドローンDJI Matrice 100との組み合わせで同等の結果を確認している。
  • 30m、50m、100mの各高度で撮影した画像から得られるNDVI(生育診断に使用する植生指数)には高い相関がある(図3)。よって、水稲の効率的なリモートセンシングは、条間検出が可能となるGSD(地上分解能、解像度)10cm以下かつ高速飛行が可能となる100m~115mの高度での撮影が適している。
  • 汎用型ドローンを利用して100ha超の広域を撮影した場合、複数回のバッテリー交換が必要であるが、有効撮影能率は16.1ha/10分と従来の高度30mからの撮影に比べて約10倍効率的である。バッテリー交換等も含めた総作業時間は86分である(表1)。
  • 100ha超の対象面積を撮影した場合の画像容量は40GB以上になり、PCへの画像ファイルの転送や不要画像の削除等の前処理に約2時間が必要である(表1)。ただし、画像解析に「Pix4D Fields」を利用すると一般的に市販されているスペックのパソコンでも約2時間でNDVI指数マップの合成が可能で、解析時間を従来の約1/10に短縮できる(図2(B)、表1)。

普及のための参考情報

  • 普及対象:公設試験研究機関、リモートセンシング事業者、集落営農法人等の大規模生産者。
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:産地単位の水田作地域。
  • その他:Parrot SequoiaをDJI Phantom 4 もしくは4 proに搭載するためのマウントは国内では市販されていないため、海外から取り寄せるか、3Dプリンタ等で自作する必要がある。現在はPhantom 4及び4 proは生産が中止されており、Phantom 4 Pro V2.0が入手可能である。また、Parrot Sequoia及びMicaSense RedEdgeは販売されておらず、より高精度なSequoia+及びRedEdge-MXが入手可能である。有効撮影能率やバッテリー交換回数は、撮影範囲の設定方法や撮影時の風速、気温等の条件によって変動する。Pix4D Fieldsの利用料は年間約30万円である。
  • 本成果を基にして、株式会社福岡九州クボタが次年度よりリモートセンシングを事業化予定。

具体的データ

図1 マルチスペクトルカメラ「Parrot Sequoia」を搭載したドローン「DJI Phantom 4 pro」と自作マウント,図2 フライトアプリ「GS Pro」の自律飛行ルート設定画面(A)とNDVI指数マップ(B),図3 高度30m、50m、100mで撮影した画像から計測したNDVIの相関,表1 100ha超の広域面積撮影時の有効撮影能率と画像解析に要する時間,

その他

  • 予算区分:交付金、その他外部資金(28補正「経営体プロ」)
  • 研究期間:2017~2019年度
  • 研究担当者:大段秀記、官森林、深見公一郎、佐々木豊、中野恵子、高橋仁康、中野洋、田中良、末次裕昭(福岡九州クボタ)、林大聖(福岡九州クボタ)
  • 発表論文等:Guan S. et al. (2019) Remote Sens. 11: doi.org/10.3390/rs11020112