炊飯後の褐変程度が小さく穂発芽性が改良された多収の二条大麦新品種「しらゆり二条」

要約

「しらゆり二条」は皮性のうるち性二条大麦で、プロアントシアニジンフリー(ant28)遺伝子を持ち、炊飯後の褐変程度が小さい。同じくant28遺伝子を持つ皮性のうるち性二条大麦品種「白妙二条」と比べて穂発芽しにくい。収量は多収の二条大麦品種「はるか二条」と同等である。

  • キーワード:オオムギ、プロアントシアニジンフリー、穂発芽性、多収、オオムギ縞萎縮病
  • 担当:農研機構九州沖縄農業研究センター・暖地水田輪作研究領域・作物育種グループ
  • 代表連絡先:電話 0942-52-0664
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

プロアントシアニジンフリー(ant28)遺伝子を持つ大麦は、炊飯後の褐変程度が小さいが種子休眠性が弱く穂発芽しやすいという特徴を有する。同遺伝子を持つ二条大麦品種として「白妙二条」が2008年に農研機構九州沖縄農業研究センターで育成されたが、穂発芽しやすく、また、オオムギ縞萎縮ウイルス系統III型に罹病するという欠点がある。そこで、「はるか二条」の穂発芽耐性、オオムギ縞萎縮病抵抗性および多収性を導入したプロアントシアニジンフリー品種を育成する。

成果の内容・特徴

  • 「しらゆり二条」(旧系統名:「西海皮76号」)は、ant28遺伝子を持つ「四国裸糯119号」(のちの「キラリモチ」)を1回親、「西海皮69号」(のちの「はるか二条」)を反復親として2010年度に1回目の、2011年度に2回目の戻し交配を行い、系統育種法により育成された皮性のうるち性二条大麦である。
  • 「白妙二条」と比べて出穂期は4日、成熟期は2日早い早生種である(表1)。
  • 「白妙二条」と比べて稈長は同程度で、穂長は短く、穂数はわずかに多く、整粒歩合は高く、粗麦収量および整粒収量が多い(表1)。整粒収量は多収品種である「はるか二条」と同等である(表1)。
  • 「白妙二条」と比べて容積重および千粒重はわずかに重く、玄麦外観品質は同程度である(表1)。
  • 穂発芽性は"やや難"、オオムギ縞萎縮病のIII型抵抗性は"極強"で「白妙二条」より優れる(表2)。うどんこ病抵抗性は"極強"で「白妙二条」と同程度である(表2)。赤かび病抵抗性は"中"で「白妙二条」より1階級劣る(表2)。
  • 「白妙二条」と比べて搗精時間は同程度で、砕粒率および精麦白度はわずかに低い(表3)。
  • β-グルカン含量は玄麦、精麦のいずれも「白妙二条」と同程度である(表3)。
  • 炊飯後の褐変の原因となるプロアントシアニジン含量は、玄麦、精麦のいずれも「白妙二条」と同様に極めて少ない(表3)。
  • 炊飯麦の色相は、炊飯直後および70°Cで保温した炊飯翌日のいずれも明るさ、赤み、黄色みは「白妙二条」と同程度である(表3)。また、「はるか二条」と比べて炊飯後の褐変程度が小さい(図1)。

普及のための参考情報

  • 普及対象:大麦生産者および実需者
  • 普及予定地域・普及予定面積:栽培適地は暖地および温暖地の平坦地。2020年に佐賀県で200ha作付けされ、需要動向を踏まえた上で2021年以降に面積拡大が図られる予定。
  • その他:2020年3月に普通大粒大麦として佐賀県の産地品種銘柄に指定された。

具体的データ

表1 「しらゆり二条」の生育、収量および玄麦特性,表2 「しらゆり二条」の穂発芽性および病害抵抗性,表3 「しらゆり二条」の品質特性,図1 「しらゆり二条」の炊飯直後と炊飯24時間後(70°C保温)の炊飯麦の外観

その他

  • 予算区分:交付金、委託プロ(業務・加工用)
  • 研究期間:2009~2019年度
  • 研究担当者:
    平将人、谷中美貴子、中村和弘、境哲文、松中仁、杉田知彦、塔野岡卓司、西尾善太、河田尚之、荒木均、藤田雅也、八田浩一、久保堅司
  • 発表論文等:
    平ら「しらゆり二条」品種登録出願公表第33878号 (2019年7月11日)
    平ら(2021)育種学研究:J-STAGE早期公開(https://doi.org/10.1270/jsbbr.21J07)