萌芽性に極めて優れる株出し多収のサトウキビ新品種「はるのおうぎ」
要約
サトウキビ新品種「はるのおうぎ」は、鹿児島県熊毛地域において春植え、株出しの両作型で原料茎重と可製糖量が多い。株出し萌芽性に極めて優れ、茎数は多く、かつ耐倒伏性に優れる。
- キーワード:サトウキビ、株出し多収、萌芽性、機械収穫
- 担当:九州沖縄農業研究センター・作物開発利用研究領域・さとうきび育種グループ
- 代表連絡先:電話 029-838-8393
- 分類:普及成果情報
背景・ねらい
鹿児島県熊毛地域の種子島では、サトウキビの不作が続いた直近の5年間において、年間100戸以上の栽培農家戸数の減少および年間100ha以上の収穫面積の減少が継続しており、島内経済を支える製糖産業の存続に関わる事態となっている。
種子島の収穫面積の55.3%(2018年産)を占める主要品種「NiF8」は耐病性に優れ、収量も安定していたが、機械収穫率の上昇により収穫時の株の引き抜きや踏圧による欠株の多発が問題視されている。収穫面積の約7割を株出しが占める種子島では「NiF8」の萌芽不良による株出し単収の減少が島内の生産量に甚大な影響を及ぼしている。そのため、種子島向け機械収穫体系に適する株出し多収品種を育成する。
成果の内容・特徴
- 「はるのおうぎ」は、多回株出しでの収量性に優れる飼料用サトウキビ品種「KRFo93-1」を母本(種子親)、早期高糖で一茎重が重い製糖用サトウキビ品種「NiN24」を父本(花粉親)とする交配により得た種子を、株出し多収性と高糖性を重視して選抜した品種である (図1)。
- 茎数が極めて多く、熊毛地域における原料茎重と可製糖量は、春植え、1回株出し、2回株出しのいずれにおいても「NiF8」より多い (表1)。
- 萌芽性は"極高"であり(表2)、機械収穫後でも萌芽数が多い(図2)。
- 耐倒伏性は"強"であり、倒伏しにくい(表2)。
- 黒穂病抵抗性は"弱"である(表2)。
- 脱葉性は"難"である(表2)。
普及のための参考情報
- 普及対象:サトウキビ生産者、製糖企業。
- 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:鹿児島県熊毛地域の1150ha。
- その他:(1)鹿児島県が「NiF8」を代替対象として2019年8月に熊毛地域(種子島)の奨励品種に採用した。(2)黒穂病抵抗性が"弱"であるため、適切な採苗圃の設置、植え付け時の苗消毒、発生時の株の抜き取り等に努める。(3)脱葉性が"難"であり、茎数も非常に多いことから手刈り収穫は困難であり、機械収穫が望ましい。(4)収穫後に品質劣化が生じる場合があるため、速やかに製糖工場に搬入することが望ましい。
具体的データ

その他
- 予算区分:交付金、委託プロ(地域バイオマス)、競争的資金(イノベ創出強化)
- 研究期間:2008~2019年度
- 研究担当者:
服部太一朗、松岡誠、寺内方克、寺島義文、境垣内岳雄、石川葉子、田中穣、樽本祐助、早野美智子、安達克樹、梅田周、田村泰章、髙橋宙之、杉本明(国際農研)
- 発表論文等:
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服部ら「はるのおうぎ」品種登録出願公表第33768号(2019年7月4日)
- 服部ら(2019)農研機構研究報告、2:21-44