夏播きで年内出穂が安定し、冠さび病と倒伏に強い極早生エンバク品種「K42R8」

要約

エンバク「K42R8」は、適期より遅い播種(暖地では9月下旬)でも年内に出穂し、極早生の普及品種である「ウエスト」より倒伏に強い。重要病害である冠さび病にも「ウエスト」や普及品種で年内出穂が安定している「九州15号」より強い。

  • キーワード:エンバク、夏播き栽培、冠さび病、耐倒伏性、飼料作物育種
  • 担当:九州沖縄農業研究センター・畜産草地研究領域・飼料作物育種グループ
  • 代表連絡先:電話 0287-37-7807
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

エンバクの夏播き・年内収穫栽培は、自給飼料の端境期である冬季に良質粗飼料を供給できる作型として暖地を中心に広く普及している。暖地での夏播き栽培では、9月上旬が播種適期とされてきたが、天候の影響や作業の競合などの他、雑草の繁茂を避けて安定生産を図る場合に、播種作業が9月下旬になることがあり、そのような場合でも年内に出穂して収量を確保できる品種が求められている。また、「九州15号」は暖地の9月下旬播種で年内に出穂し、冠さび病抵抗性が" 極強"と判定された品種であるが、近年、冠さび病の罹病程度が高まっていることが観察されている。他のいくつかの抵抗性品種でも同様の傾向を示しており、エンバクによる高品質な飼料生産のためには、冠さび病に強い品種を充実させる必要がある。
そこで、暖地で9月下旬に播種しても年内に出穂し、冠さび病に強い品種を育成する。

成果の内容・特徴

  • 「K42R8」は、中生多収品種「スタンドオーツ」を種子親、暖地の9月下旬播種で年内に出穂し、耐倒伏性や冠さび病抵抗性に優れる極早生品種「九州14号」を花粉親として交配した組合せから、農研機構とカネコ種苗株式会社との共同研究により育成した品種である。
  • 出穂は、適期播種の場合、平均で「ウエスト」より2週間程度早く、「九州15号」と同程度であり、適期より遅い播種では「九州15号」より1週間程度遅いが、「ウエスト」より早い(表1)。収穫時の出穂程度は「九州15号」と同程度であり(表1、図1)、暖地の9月下旬播種では年内に出穂する。
  • 乾物収量は、適期播種の場合では「九州15号」と同程度、適期より遅い播種では「九州15号」より低収傾向である(表1)。
  • 収穫時の乾物率は、「九州15号」と同程度で、「ウエスト」より高い(表1)。
  • 草丈は、「九州15号」や「ウエスト」と同程度である(表1)。
  • 倒伏程度は「ウエスト」より低く(表1、図2)、耐倒伏性に優れる。
  • 病害程度は、「九州15号」や「ウエスト」と同程度であるが(表1)、冠さび病に対する罹病個体割合や罹病程度は「九州15号」や「ウエスト」より低く、冠さび病抵抗性は"かなり強"である(表2)。
  • 粗蛋白質含有率は「九州15号」と同程度で、「ウエスト」より低く、推定TDN含量は、適期播種では「九州15号」と同程度であるが、適期より遅い播種では「九州15号」より高い(表1)。

成果の活用面・留意点

  • 関東以西、特に暖地を中心に利用が見込まれ、既存の極早生品種を栽培できる地域で本品種が利用可能である。
  • 暖地では9月下旬播種でも年内に出穂するため、イタリアンライグラスとの混播などにおいてエンバクで年内の収量を確保する栽培に適する。

具体的データ

表1 夏播き栽培における「K42R8」の生育特性出穂始め乾物収量,表2 個体植え試験で観察された冠さび病の罹病個体割合と罹病程度2017年秋播き),図1  9月下旬播種での生産力検定試験における草姿,図2 生産力検定試験での倒伏の発生状況 品種名の後ろの値は、倒伏程度で1: 無 -9:甚

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2005~2019年度
  • 研究担当者:
    桂真昭、西本淳(カネコ種苗)、山下浩、我有満、髙井智之、上床修弘、松岡誠、荒川明、松岡秀道、後藤和美、波多野哲也、木村貴志
  • 発表論文等:桂ら「K42R8」品種登録出願公表第34175号(2019年12月12日)