イチゴ果実への光合成産物の転流動態や果実シンク活性に及ぼす果房内着果順位の影響

要約

ポジトロンイメージング技術を応用し、イチゴの光合成産物の転流動態を非破壊で可視化・定量化した。果房直下葉からの転流速度や転流量は第2果が第1、第3果より大で、シンク活性は第2果が大きく、第1と第3果が同等となり、転流動態やシンク活性は果房内着果順位によって異なる。

  • キーワード:イチゴ、果実、光合成産物、転流、ポジトロンイメージング技術
  • 担当:九州沖縄農業研究センター・園芸研究領域・イチゴ栽培グループ
  • 代表連絡先:電話 096-242-7682
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

イチゴ生産において、光合成産物の転流は収量や品質を左右する重要な生理反応であり、これに基づく環境調節技術や栽培管理技術(摘果、摘葉等)を開発することで、転流促進や果実間の糖分配の最適化による高品質安定多収生産が期待される。しかし、計測の困難性によりイチゴでの計測事例は少なく、メカニズムの解明には至っていない。量子科学技術研究開発機構(量研機構)が開発したポジトロンイメージング装置(Positron Emitting Tracer Imaging System、PETIS)の利用によって果菜類の光合成産物の転流を非破壊かつ時空間連続的に可視化・定量化する技術が、ナスを供試した研究成果として報告されている(菊池、2011年研究成果情報)。
そこで、本技術をナスとは着果形態(果数、分枝構造)が異なり各果実への糖転流が品質(糖度)の面から重要であるイチゴに応用することで、果房内着果順位の異なる果実間における光合成産物の転流動態やシンク活性の差異を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • PETISによる光合成産物11Cの可視化・定量化の結果(図1)、果房直下葉から果実への光合成産物の転流は、着果順位によって到達までの時間が異なるが、最も速い果実で約1時間後に到達し始める(図2)。
  • PETIS画像で転流が確認された果実への関心領域の設定による解析の結果(図3A)、果房直下葉から果実への11C転流量は第2果(白熟期)、第1果(着色期)、第3果(緑熟期)の順となり、果房内の着果順位によって転流量が異なる(図3B)。
  • 果実への11C転流量の値を各果実の乾物重で除して算出する11C転流活性は、第2果で最も高くなり、第1果と第3果では同等となっている。このことから、果房内の着果順位によって光合成産物に対するシンク活性が異なることがわかる(図3C)。

成果の活用面・留意点

  • イチゴ栽培における摘果等の栽培管理や環境制御のための基礎的知見となる。
  • (国研)農研機構九州沖縄農業研究センター内の太陽光利用型植物工場において、一季成り性品種「福岡S6号」(あまおう)を9月中旬に15cmポリポットに定植して栽培し、開花結実したイチゴ株を(国研)量子科学技術研究開発機構高崎量子応用研究所に持ち込んで実験を行った。
  • 11CO2を投与する葉位、果数、果実生育ステージや品種によって転流量や転流先が変わる可能性がある。

具体的データ

図1 PETISによる転流計測の様子,図2 11CO2投与後20分毎の果実への光合成産物の転流画像,図3 果実への11Cの転流量および11C転流活性の経時変化

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(科研費)
  • 研究期間:2016~2019年度
  • 研究担当者:
    日高功太、三好悠太(量研機構)、石井里美(量研機構)、鈴井伸郎(量研機構)、尹永根(量研機構)、栗田圭輔(原子力機構)、荒木卓哉(愛媛大)、安武大輔(九大)、北野雅治(九大)、河地有木(量研機構)
  • 発表論文等:
    • Hidaka K. et al. (2019) Front. Plant Sci. 9:1946
    • 三好ら(2019)アグリバイオ、3:761-764