高温登熟条件下における大麦への実肥施用の効果は穂揃期の生育状態が影響する

要約

大麦の高温登熟条件下において、実肥は、穂揃期の1粒当たりの利用可能な非構造性炭水化物(NSC)量が多い年には収量及び容積重の増加に効果がなく遅れ穂を多発させるが、穂揃期の1粒当たりの利用可能なNSC量が少ない年には収量及び容積重の増加に効果がある。

  • キーワード:大麦、高温、収量、実肥、穂揃期追肥
  • 担当:九州沖縄農業研究センター・水田作研究領域・水田栽培グループ
  • 代表連絡先:電話 096-242-1150
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

地球の平均気温は、1880~2012年の間に0.85°C上昇し、2100年にはRCP2.6(低位安定化シナリオ)では0.3~1.7°C、またRCP8.5(高位参照シナリオ)では2.6~4.8°C上昇することが指摘されている(IPCC 2014)。気温の上昇は、穀類の収量を低下させる(Lobell and Field 2007)等、農業分野に大きな影響を及ぼしている。大麦の栽培では、登熟期の高温により粒重の低下を介して収量が低下する(辻田ら、2015)が、粒重は穂揃期の窒素施肥(実肥)により増加することが知られている(服部、1994)。このため、実肥の施用は高温登熟対策技術の有効な手段の1つになり得ると考えられる。
そこで本研究では、穂揃期の生育状況の異なる大麦への高温登熟条件下での実肥の効果を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 分げつ期前半が高温の年(平年値+1.1°C)は、分げつ期間が短縮して(2016-2017年シーズンは2017-2018年シーズンに比べて平均して13.6日短縮)面積当たりの粒数が少なくなり低収となるが、分げつ期前半が低温の年(平年値-1.5°C)は、面積当たりの粒数が多くなり多収となる(図1及び2)。収量と粒数との間には、強い正の相関(r=0.932***、0.1%水準で有意)がある。
  • 登熟期の気温が1°C以上高い高温登熟条件下において、収量、千粒重及び容積重は、実肥により、穂揃期の1粒当たりの利用可能な非構造性炭水化物(NSC)量が多い年には増加しないが、少ない年には増加する(図1、2及び3)。
  • 遅れ穂の発生は、実肥により、穂揃期の1粒当たりに利用可能なNSC量が多い年には増加するが、少ない年には増加しない(図2及び3)。
  • 以上のことから、高温登熟年では、実肥は、分げつ期前半の気温が低く穂揃期の1粒当たりの利用可能なNSC量が少ない年には収量及び容積重の増加に効果があるが、分げつ期前半の気温が高く穂揃期の1粒当たりの利用可能なNSC量が多い年には収量及び容積重の増加に効果がなく遅れ穂を多発させる(図1、2及び3)。

成果の活用面・留意点

  • 高温登熟条件下における実肥施用の可否を冬期の気温から判断する栽培技術開発の基礎的知見として活用できる。
  • 具体的データは、「はるか二条」の早播き(11月上旬)、普通期(11月下旬)及び遅播き(12月中旬)の結果を平均したものである。分げつ期前半は播種後10日から40日とし、分げつ期後半は播種後41日から茎立ち期とした。
  • 実肥によりタンパクの上昇に伴い白度が低下することが考えられるため、用途によっては注意が必要である。

具体的データ

図1 2016−2017年シーズン及び2017−2018年シーズンにおける平均気温,図2 2016−2017年シーズン及び2017−2018年シーズンにおける整粒収量,図3 2016−2017年シーズン及び2017−2018年シーズンにおける穂揃期の1粒当たりの利用可能なNSC量(a)及び遅れ穂の数(b)

その他

  • 予算区分:交付金、委託プロ(温暖化適応・異常気象対応)
  • 研究期間:2016~2019年度
  • 研究担当者:田中良、中野洋
  • 発表論文等:Tanaka R. and Nakano H. (2019) Sci. Rep. 9:8477