水稲多収品種の登熟に関与する量的形質遺伝子座

要約

インド型多収品種「タカナリ」は、日本型多収品種「モミロマン」に比べ、穂の着粒位置別に見ると上位の3次籾重や下位の2次及び3次籾重が大きく登熟が優れる。穂の下位の2次及び3次籾重を「タカナリ」型で増加させる量的形質遺伝子座(QTL)は、第5染色体上にある。

  • キーワード:水稲、タカナリ、モミロマン、登熟、量的遺伝子座、QTL
  • 担当:九州沖縄農業研究センター・水田作研究領域・水田栽培グループ
  • 代表連絡先:電話 096-242-1150
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

インド型水稲品種は高温への適応性があるため熱帯地域で主に栽培されているのに対し、日本型水稲品種は低温への適応性があるため温帯地域で主に栽培されている(GriSP, 2013)。また、インド型品種は、日本型品種に比べ、気温が高い条件や籾数が多い条件等で登熟が優れることが知られている(Yoshida and Hara, 1977; Yoshinaga et al., 2013)。さらに、穂の着粒位置別に見ると、日本型水稲品種に比べ、枝分かれが多い着粒位置の籾重(3次籾)が増加しやすく(Nakano and Tsuchiya, 2012)、この特性が優れた登熟特性に寄与していると考えられている。今後の気候変動に適応し得る多収品種を育成するためには、インド型品種の持つ登熟に関与する対立遺伝子を日本型品種に導入することが求められる。
そこで本研究では、インド型多収品種「タカナリ」と日本型多収品種「モミロマン」との交雑に由来する組換え自殖系統群(RILs)を材料として用い、穂の着粒位置別の登熟(籾重増加)に関与する量的形質遺伝子座(QTL)を検出する。

成果の内容・特徴

  • 穂に着粒している籾を上位(先端から8番目の1次枝梗)及び下位(9番目以降の1次枝梗)に分けるとともに、穂軸からの枝分かれ数に応じて1次、2次及び3次に分けると、上位の1次及び2次籾重及び下位の1次籾重は、インド型多収品種「タカナリ」と日本型多収品種「モミロマン」との間に差はない(図1)。しかし、上位の3次及び下位の2次及び3次籾重は、「タカナリ」が「モミロマン」に比べ、それぞれ27%、31%及び86%大きい。
  • 下位の2次及び3次籾重に関与するQTLは、第5染色体上のSSRマーカーRM17836とRM3476との間にあり、これらの「タカナリ」型の対立遺伝子は、それぞれ下位の2次及び3次籾重を増加させる(図2)。また、第5染色体上には、1穂籾数や穂の構造に関与するQTLは検出されない。
  • 下位の2次及び3次籾重に関与するQTLは、近傍マーカーの遺伝子型でRILsをタカナリ型、モミロマン型及びヘテロ型に分け、下位の2次及び3次籾重を見てみると、ヘテロ型はタカナリ型に比べこれらの値が低いため不完全優性である(図3)。
  • 以上のことから、「タカナリ」の穂の下位の2次及び3次籾重が大きいといった登熟特性には、第5染色体上のQTLが関与している(図1、2及び3)。

成果の活用面・留意点

  • 登熟能力の高い日本型及びインド型多収品種育成に係る基礎的知見として活用できる。
  • 本研究では、穂の先端から8番目の1次枝梗に関係する着生籾を上位とし、9番目以降の1次枝梗に関係する着生籾を下位とした。
  • 具体的データの図1及び3については、それぞれ「タカナリ」及び「モミロマン」及びF5世代のRILs68系統を茨城県つくばみらい市において2012年に栽培して得たデータを解析した際にも同様の結果が得られている。

具体的データ

図1 「タカナリ」及び「モミロマン」の穂の着粒位置別の籾重,図2 「タカナリ」と「モミロマン」との交雑に由来する組換え自殖系統群(RILs)の着粒位置別の登熟(籾重増加)に関与する量的遺伝子座(QTL)の染色体座乗位置,図3 第5染色体に検出した穂の下位の2次及び3次籾重に関与するQTL近傍のマーカーRM3295における遺伝子型別の穂の下位の2次(a)及び3次籾重(b)の頻度分布

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2012~2019年度
  • 研究担当者:中野洋、高井俊之(国際農研)、近藤始彦(名古屋大)
  • 発表論文等:Nakano H. et al.(2019) Plant Prod. Sci. 22:443-455