玄米中のフェノール性化合物の含有率に関与する量的形質遺伝子座

要約

高温ストレスバイオマーカーや機能性化合物として単離・同定されている玄米中のフェノール性化合物の含有率に関与する量的形質遺伝子座(QTL)は、第2染色体短腕、第2染色体長腕、第4染色体長腕及び第5染色体上等にある。

  • キーワード:水稲、コシヒカリ、タカナリ、フェノール性化合物、量的形質遺伝子座、QTL
  • 担当:九州沖縄農業研究センター・水田作研究領域・水田栽培グループ
  • 代表連絡先:電話 096-242-7683
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

これまでに、玄米に含まれる高温ストレスバイオマーカーとして3',6-di-O-sinapoylsucrose (2)及び3'-O-sinapoyl-6-O-feruloylsucrose (3)等のphenylpropanoid glycosidesや、cycloartenyl ferulate (4)及び24-methylenecycloartanyl ferulate (5)等 のsteryl ferulates(γ-oryzanolの主成分)といったフェノール性化合物が単離されるとともに、phenylpropanoid glycosides及びsteryl ferulatesの総量は高温登熟条件下で増加することが明らかになっている(Nakano et al., 2013)。また、phenylpropanoid glycosidesやsteryl ferulatesは、抗炎症活性等の有用な生理活性を持つことが明らかになっている(Diaz et al., 2004; Mandak and Nystrom, 2012)。インド型品種は、日本型品種に比べ、γ-oryzanolの含有率が低い傾向があり(Heinemann et al., 2008)、高温条件下でも粒重を増加させる能力を持つ(Yoshida and Hara, 1977)。
そこで本研究では、日本型品種「コシヒカリ」とインド型品種「タカナリ」の交雑に由来する正逆染色体断片置換系統群(CSSLs)を材料として用い、玄米中のフェノール性化合物phenylpropanoid glycosides及びsteryl ferulatesの含有率に関与する量的形質遺伝子座(QTL)を検出する。

成果の内容・特徴

  • 「コシヒカリ」は、「タカナリ」に比べ、6-O-feruloylsucrose (1)、3',6-di-O-sinapoylsucrose (2)、3'-O-sinapoyl-6-O-feruloylsucrose (3)、cycloartenyl ferulate (4)及び24-methylenecycloartanyl ferulate (5)の含有率(w/w)がそれぞれ57%、162%、84%、20%及び34%高い(図1、データ略)。
  • 6-O-feruloylsucrose (1)の含有率(w/w)に関与するQTLは、第1、第2、第3、第5、第7、第8、第9及び第10染色体上にあり、このうち、第2染色体短腕上のQTLについては、「タカナリ」型の対立遺伝子が「コシヒカリ」の遺伝的背景において含有率を減少させ、逆に「コシヒカリ」型の対立遺伝子が「タカナリ」の遺伝的背景において含有率を増加させる(図1及び2)。
  • 3',6-di-O-sinapoylsucrose (2)の含有率(w/w)に関与するQTLは、第4、第8及び第11染色体上にあり、このうち、第4染色体長腕上のQTLについては、「タカナリ」型の対立遺伝子が「コシヒカリ」の遺伝的背景において含有率を減少させ、逆に「コシヒカリ」型の対立遺伝子が「タカナリ」の遺伝的背景において含有率を増加させる(図1及び2)。
  • 3'-O-sinapoyl-6-O-feruloylsucrose (3)の含有率(w/w)に関するQTLは、第3、第4、第5、第6、第7及び第11染色体上にある(図1及び2)。
  • cycloartenyl ferulate (4)の含有率(w/w)に関するQTLは、第1、第2、第3、第4、第5、第9、第11及び第12染色体上にある。このうち、第2染色体長腕上のQTLについては、「タカナリ」型の対立遺伝子が「コシヒカリ」の遺伝的背景において含有率を増加させ、逆に「コシヒカリ」型の対立遺伝子が「タカナリ」の遺伝的背景において含有率を減少させる(図1及び2)。これに対し、第4染色体長腕及び第11染色体上のQTLは、「タカナリ」型の対立遺伝子が「コシヒカリ」の遺伝的背景において含有率を減少させ、逆に「コシヒカリ」型の対立遺伝子が「タカナリ」の遺伝的背景において含有率を増加させる(図1及び2)。
  • 24-methylenecycloartanyl ferulate (5)の含有率(w/w)に関するQTLは、第1、第2、第4、第5、第10及び第12染色体上にあり、このうち、第5染色体上のQTLについては、「タカナリ」型の対立遺伝子が「コシヒカリ」の遺伝的背景において含有率を減少させ、逆に「コシヒカリ」型の対立遺伝子が「タカナリ」の遺伝的背景において含有率を増加させる(図1及び2)。

成果の活用面・留意点

  • インド型品種の高温登熟耐性機構の解明や機能性を持った品種の育成に係る基礎的知見として活用できる。
  • 6-O-feruloylsucrose (1) の含有率に関与する第2染色体短腕上のQTL及び 3',6-di-O-sinapoylsucrose (2)の含有率に関与する第4染色体長腕上のQTLについては、茨城県つくばみらい市において2011年に栽培して得たデータを解析した際にも同様の結果が得られている。

具体的データ

図1 玄米に含まれるフェノール性化合物,図2 「コシヒカリ」と「タカナリ」との交雑に由来する正逆染色体断片置換系統群(CSSLs)の比較

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(科研費)
  • 研究期間:2011~2019年度
  • 研究担当者:中野洋、高井俊之(国際農研)、近藤始彦(名古屋大)
  • 発表論文等:
    • Nakano H. et al. (2018) Cereal Chem. 95:800-810
    • Nakano H. et al. (2019) ACS Omega 4:17317-17325