減化学肥料栽培に活用できる有機質資材の窒素肥効Web計算ツール

要約

Web上で、有機質資材の種別、施用量、施用日、収穫予定日を入力し、日本土壌インベントリーと連動した地図上の地点を選択すると、栽培期間中における資材由来の無機態窒素量の予測値が提示されるツールである。露地畑での有機質資材の施用設計に活用できる。

  • キーワード:有機質資材、家畜ふん堆肥、窒素肥効予測、統計モデル、見える化
  • 担当:九州沖縄農業研究センター・生産環境研究領域・土壌肥料グループ
  • 代表連絡先:
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

化学肥料と異なり、家畜ふん堆肥、植物油かす、緑肥などの有機質資材は、土壌中で分解することにより、作物が利用できる無機態窒素を放出する。
しかし、この無機態窒素の放出量は、有機質資材の特性、農地の土壌条件や気象条件など様々な要因により変動する。そこで、これら有機質資材の種類、土壌条件等に応じた無機態窒素の放出量を、Web上での数分の簡単な入力作業により予測し、窒素肥効を見える化する。それにより、資材の施用設計を支援し、減化学肥料栽培や有機栽培推進の一助とする。

成果の内容・特徴

  • 本成果は、Web上で、作物が利用可能な有機質資材由来の無機態窒素量を試算するツールであり、農研機構の日本土壌インベントリー(https://soil-inventory.dc.affrc.go.jp/)ホーム画面から起動できる(公開は2021年3月)。ユーザーは資材の種別、施用量、施用日、収穫予定日を入力する。また、地図上から任意地点(ほ場)を選択すると、土壌特性値と気象データ(平年値)から自動計算された土壌温度および土壌水分の推定値が読み込まれる。これらの情報をもとに、有機質資材由来の無機態窒素量の予測値が計算表示される(図1)。
  • 本ツールでは、無機態窒素量の予測に、ベイズ推定法により新たに開発したモデル式を用いる(図2)。施用される有機質資材、農地土壌、環境条件の多様さに対応するために、500点以上の資材を収集、分析し、そこから32点を選抜して、4種類の土壌(堆肥連用、非連用の黒ボク土および灰色低地土、赤色土各1点)を用い、9つの環境条件(土壌温度10、20、30°C×土壌水分含量として最大容水量の45、60、75%)のもと、静置培養実験により資材からの無機態窒素の放出量を調べ、その結果をもとにモデル式を推定している(図3)。
  • 本ツールは露地畑を対象としており、家畜ふん堆肥(牛ふん堆肥、豚ぷん堆肥、鶏ふん堆肥)、市販有機質資材(植物油かす、魚かす、骨粉、米ぬか)、緑肥(イネ科、マメ科、アブラナ科、キク科)について、前述した500点の資材分析値から各資材種別に算出した、平均的な資材由来の無機態窒素量が予測できる。予測結果は、有機質資材の施用設計に活用できる。

普及のための参考情報

  • 普及対象:有機質資材を利用して減化学肥料栽培などに取り組む生産者、普及指導機関。
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:全国
  • その他:
    • 栽培期間が30日以上3ヶ月以内程度の野菜栽培等での使用を想定している(資材施用日から30日程度までは予測精度が十分ではなく、また、モデル式算出のための静置培養実験の実験期間は12週間であるため)。土壌温度、水分の推定が露地を対象にしているため、現時点では施設栽培には適用できない。
    • 予測モデルに利用するパラメータ値は一定の変動を有するが、本ツールではその代表値を用いているため、予測結果は一定の誤差を含んでいることに留意が必要である。
    • 今後、全国各地の有機質資材の無機態窒素放出量に関する試験結果を取り込み、モデル式のデフォルトパラメータ値を更新する計画である。
    • 本ツールのWeb公開に合わせ操作手順書を公開する。また、2021年8月までにSOPを作成する。

具体的データ

図1 窒素肥効Web計算ツールの操作画面(案),図2 有機質資材の無機態窒素放出量を計算するモデル式,図3 土壌に混和した有機質資材由来の無機態窒素量(資材乾物重量あたりの窒素量%)の例

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2016~2020年度
  • 研究担当者:
    井原啓貴、古賀伸久、仁科一哉(国立環境研)、小林創平、新美洋、山口典子、山根剛、草場敬、渕山律子、望月賢太
  • 発表論文等:
    • 古賀ら、特願(2021年2月18日)
    • 古賀ら(2019)職務作成プログラム「有機質資材土壌培養窒素無機化データベース(九州沖縄版)」機構-P09
    • 古賀ら(2019)土肥誌、90:107-115