暖地二毛作体系に対応した畝立て乾田直播機の開発と高能率化

要約

畝立て直播は、表面が硬い台形断面状の播種畝を成形しながら畝の天面に播種することで、圃場の漏水防止、降雨・滞水に伴う種子の酸欠やスクミリンゴガイの食害回避を図る技術である。高水分条件でも所要動力は相対的に小さく、プラウ耕との組合せは作業の高能率化に有効である。

  • キーワード:暖地二毛作、乾田直播、畝立て直播、プラウ耕、高能率
  • 担当:九州沖縄農業研究センター・生産環境研究領域・熱帯性病害虫管理グループ
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

水稲の乾田直播栽培は、規模拡大が進む九州北部地域において、作業能率の向上とともに当地域で深刻なスクミリンゴガイの食害を回避できる有用な技術である。しかし、水稲-麦類-大豆-麦類の二毛作体系では、水稲作に向けての作業期間が短いため、高能率かつ播種・漏水防止対策時の天候や排水性の劣る圃場の水分状態に左右されにくい、当地域に対応可能な乾田直播技術が求められている。
そこで、本研究では漏水防止機能を有し、降雨後の高水分条件でも播種可能な畝立て直播機の開発とプラウ耕との組合せによる直播作業への有効性を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 本技術のため開発した畝立て直播機は、トラクタの後方に装着され、土壌反転ディスクを利用した①畝成形補助部でタイヤ跡を均し、ソロバン玉状の回転・駆動する②畝成形部で表面が硬い台形状の播種畝を成形して圃場の漏水防止を図り、③直播作業部、④播種・施肥部および⑤覆土鎮圧部で畝の天面に播種することで、生育初期の降雨・滞水による湿害とスクミリンゴガイの食害回避を図る(図1)。
  • 本播種機は、塑性限界(土を練り、すりガラス上で直径3mmのひも状にできる時の土壌水分状態)以下の低水分条件では畝を成形できないが、塑性限界45%(九沖農研圃場:黒ボク土客土)では含水比48%でも表面が硬い鏡面状の畝を成形でき(図2)、塑性限界32%と33%である福岡県みやま市と熊本県玉名市の圃場(灰色低地土)では含水比44%と45%でも畝成形が可能である。
  • 本播種機の所要動力は、畝成形が優となる高水分条件(含水比48%)において、作業速度4.5km/h以上でも供試トラクタ42PS(30.9kW)の最大出力の1/4程度に収まる(図3)。
  • 本技術は、プラウ耕直後の播種作業が可能であり、現在の「ロータリ耕+畝立て直播体系」から前耕起をプラウ耕に変更し、機械の作業幅や作業速度を向上させることで「畝立て直播体系の高速化」が可能となる(図4)。
  • 場内試験(2017)では、「ロータリ耕+畝立て直播」と「プラウ耕+畝立て直播」の苗立率(%)は47±13と59±13、坪刈り収量(kg/10a)は598±30と581±85となり、プラウ耕が生育に及ぼす影響も相対的に小さいと判断される(図表省略)。

成果の活用面・留意点

  • 本播種機の所要動力は、九州沖縄農業研究センター(筑後)内の壌土(Loam)圃場において得られた結果である。また、含水比48%の試験時は前日に40mm程度の降雨有り。
  • 低水分条件では、畝が成形できないだけでなく漏水防止効果も著しく低下するため、播種時期に乾きにくい半湿田圃場や降雨後の播種作業が本技術に適する。
  • 農業機械技術クラスタ事業(2018-2021)において、畝立て直播機の市販化に取り組んでいる。

具体的データ

図1 畝立て直播機の構成と畝成形部の概要,図2 土壌水分が畝の成形に及ぼす影響,図3 作業条件と所要動力の関係,図4 プラウ耕と組合せた効果(試算)

その他

  • 予算区分:交付金、農業機械技術クラスタ
  • 研究期間:2016~2020年度
  • 研究担当者:深見公一郎、高橋仁康、中野恵子、松尾直樹、佐々木豊、官森林
  • 発表論文等:
    • 深見ら「播種畝成形直播機」特許第6754928号(2020年9月16日)
    • 深見公一郎(2019)農作業研究、54(4):201-208