被覆尿素肥料からの窒素溶出量は夏作だけでなく冬作の低温期間も含めて推測できる

要約

主要な緩効性肥料であるポリオレフィン系の被覆尿素肥料の窒素溶出速度の温度変化は5~40°Cにおいてアレニウス式に従う。したがって、低温も含めた温度域でパラメータの値を求めることで、夏作の高温域の期間だけでなく、冬作の低温域の期間も含めた窒素溶出量を推測できる。

  • キーワード:被覆尿素肥料、窒素溶出量、温度依存性、活性化エネルギー、低温
  • 担当:九州沖縄農業研究センター・地域戦略部・研究推進室
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

任意の時期に窒素を溶出させられる被覆尿素肥料は元々、水稲作向けとして開発され、その経時的な溶出量を温度から推測するモデルが水稲作において開発されている。近年、被覆尿素肥料は他作物でも用いられるが、水稲作に比べて低温となる冬作でのモデルの適合性はよく検討されていない。
そこで、本研究では、冬作での低温を含めた広い温度帯において、被覆尿素肥料からの窒素溶出を調べ、その温度依存性を明らかにし、低温となる冬作でのモデル利用の可能性を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 製造元や溶出型(直線型、S字型)や溶出期間が異なるポリオレフィン系樹脂の被覆尿素肥料について、低温域を含めた5~40°Cの恒温条件で経時的に窒素溶出量を調べ、これをHara(2000)の式に当てはめて得られたパラメータの値から本成果が得られた(図1, 2)。
  • 5~40°Cにおいて、製造元や溶出型や溶出期間に係わらず、各被覆尿素肥料において、速度定数(溶出の速度を示す)の対数と絶対温度の逆数には直線関係がみられ、アレニウス式に従う(図3)。このことは、適切なパラメータの値を用いれば、5~40°Cにおいて、被覆尿素肥料の窒素溶出量が推測できることを示す。
  • 上記の直線の傾きから得られる活性化エネルギー(速度定数の温度変化を示す)は、供試した全ての被覆尿素肥料で値の差が小さい(図1, 3,全20銘柄の平均と標準偏差は72.2±3.3 kJ mol-1)。したがって、ポリオレフィン系樹脂の被覆尿素肥料において、活性化エネルギーの値は一定とみなせると推察される。
  • 温度の影響(活性化エネルギー)を除いた各被覆尿素肥料の窒素溶出の特性は、形状パラメータ(主に溶出型に関係)と標準温度(25°C)速度定数(主に溶出期間に関係)で表せる(図4)。

成果の活用面・留意点

  • 著しく乾燥した条件を除けば、被覆尿素肥料の窒素溶出は温度に依存するため、地温データを用いることにより、被覆尿素肥料からの窒素溶出量が推測できる。したがって、様々な情報をリアルタイムに取得し、精密に施肥等をするスマート農業などで活用されることが期待される。
  • これまでのパラメータの値は、夏作の温度域のデータから得られている場合が多く、夏作の温度域から離れた低温域の推測には合わないことが懸念される。したがって、低温期間での推測には、低温のデータを含めた条件で得られたパラメータの値を用いる必要がある。
  • ポリオレフィン系樹脂の被覆尿素肥料で活性化エネルギーの値が一定とみなせることから、それ以外の他の被覆肥料でもそれぞれに活性化エネルギーの値は一定になることが期待される。
  • 精確な推測には地温が必要であるが、気温でも大まかな傾向を把握することは可能である。
  • 冬作で起こりえる凍結の影響は検討していない。
  • 本成果を踏まえた被覆尿素肥料からの窒素溶出量の推測方法は、プログラムで提供するとともに、webにおいても公開する予定である(末尾の発表論文等を参照)。

具体的データ

図1 窒素溶出のパラメータの計算手順,図2 各温度での被覆尿素肥料の溶出率の推移,図3 各被覆尿素肥料の速度定数,図4 各被覆尿素肥料のパラメータの分布

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2009~2020年度
  • 研究担当者:原嘉隆
  • 発表論文等:
    • 原(2020)土肥誌、91(5):366-373
    • 原(2019)職務作成プログラム「被覆尿素肥料からの窒素溶出量の計算ツール」、機構-P10
    • 農研機構(2020)「被覆尿素肥料の窒素溶出量計算アプリ」https://soil-inventory.dc.affrc.go.jp/main/chemical-fertilizer(「日本土壌インベントリー」内アプリとして2020年度内に公開予定)