牛部分肉の鮮度保持と熟成を両立させる'氷点下の未凍結貯蔵'

要約

氷点下(-1°C)の未凍結貯蔵は牛部分肉の鮮度保持と熟成を両立させる技術である。従来の未凍結状態での最低設定温度である0°Cよりも、約25日間(安全係数0.8の場合)の可食期間の延長が可能になる。また、熟成効果により肉質に付加価値を与えることができる。

  • キーワード:氷点下の未凍結貯蔵、肉質、鮮度保持、熟成、肉用牛
  • 担当:九州沖縄農業研究センター・畜産草地研究領域・肉用牛生産グループ
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

わが国での牛部分肉の未凍結流通は、食肉に関する期限表示フレーム(日本食肉加工協会2006)を参考にして可食期間を設定しており、例えば、真空包装された牛部分肉は貯蔵温度が0°Cで可食期間が61日間、2°Cで45日間などと記載されている。一方、牛肉は-1.0~-1.5°C付近に凝固点(氷結点ともいう)を有し(Rahman 2009)、冷蔵と冷凍の間にある氷点下の未凍結温度域(牛肉では0°Cから-1°C)で貯蔵することが可能であるが、期限表示フレームには標準化されておらず、食肉産業の中で積極的に活用されているとは言い難い。
そこで、本研究では牛部分肉の可食期間の延長を目的として、従来の未凍結状態での最低設定温度である0°C貯蔵と比べて、-1°Cでの貯蔵が牛部分肉の鮮度保持と熟成効果に及ぼす影響を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 真空包装された牛部分肉を-1°C貯蔵(温度誤差:±0.5°C以内)すると、貯蔵108日目でも官能検査に異常は認められず(表1)、各種の細菌数も規制値である1.0E+08 cfu/g以下で推移する(表2)。一方、0°C貯蔵では細菌数は規制値以下で推移するが、官能検査の中で特に臭いについて貯蔵108日目に腐敗臭が発生する。
  • -1°C貯蔵では、貯蔵108日目でも肉色、脂質酸化やたんぱく質腐敗といった肉質劣化が抑制され鮮度が保持される。特にたんぱく質腐敗の指標であるVBN含量は0°C貯蔵に比べて低い(表3)。
  • 筋肉組織の軟化や遊離アミノ酸総量の増加といった通常の熟成と同様の効果も得られる(図1)。
  • 食肉の可食期間を設定するために、安全係数を概ね0.8とするが、-1°C貯蔵では108日間×0.8(安全係数)= 86日間となり,従来の0°C貯蔵(形態:原料肉,種類:牛肉,包装形態:真空包装)の61日間より約25日間の延長が可能になる。

成果の活用面・留意点

  • 食肉加工および食肉流通事業者が利用するための基礎データとなる。
  • 対象とする牛部分肉の凝固点を(公社)氷温協会規格「食品の氷温貯蔵・氷温処理における氷結点測定法」などを参考にして事前に把握してから温度設定値を決める。
  • 貯蔵を行う機器は、(公社)氷温協会によると牛部分肉内の温度誤差が±0.5°C以内(周囲温度が-10°C~+30°C)になる氷温庫が望ましい。また、使用する機器のドア開閉に伴う温度変化に注意する必要がある。
  • 本技術を利用して牛部分肉の可食期間を設定する場合には、期限表示フレームが適用されないため、官能検査や微生物検査などを事業者が行う必要がある。
  • ウシの品種や筋肉部位により、肉質変化が異なる場合がある。
  • 電力コスト(年間の電気料金として試算)の比較は、冷蔵庫の1.00に対して、氷温庫が1.19、冷凍庫は2.46である(山根 2015)。
  • '氷点下の未凍結貯蔵'と'氷温(登録商標番号 第1487248号)'は同義語であるため、商品名として用いる場合は留意する必要がある。

具体的データ

表1. 貯蔵温度が牛部分肉の官能評価に及ぼす影響,表2. 貯蔵温度が牛部分肉の微生物検査に及ぼす影響,表3. 貯蔵温度が牛部分肉の鮮度保持に及ぼす影響,図1. -1°C貯蔵による牛部分肉の肉質変化

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2014~2020年度
  • 研究担当者:中村好德、福間康文(公社 氷温協会)、細見亮太(関西大)、細田謙次
  • 発表論文等:
    • 中村ら(2015)日暖畜報、58:209-215
    • 中村ら(2017)日暖畜報、60:51-55
    • 中村ら(2019)日暖畜報、62:129-133
    • 中村ら(2020)日暖畜報、63:23-28