でんぷん老化が遅延するめん用小麦新品種「にしのやわら」

要約

「にしのやわら」は、西日本地域で広く栽培され、めんや菓子用に利用される「シロガネコムギ」を戻し交雑親として、でんぷん合成に関与する6つの遺伝子のうち4つを変異型とした従属品種である。栽培性は「シロガネコムギ」並みで、うどんの老化が遅くなる効果を持つ。

  • キーワード:小麦、でんぷん変異、老化遅延、従属品種、シロガネコムギ
  • 担当:九州沖縄農業研究センター・水田作研究領域・小麦・大麦育種グループ
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

農研機構(東北農業研究センター)は、DNAマーカー育種により、アミロース合成を司る3つの酵素Granule-Bound Starch SynthaseI(GBSSI-A1 ,-B1 ,-D1)とアミロペクチン合成に関与する3つの酵素Starch Synthase IIa(SSIIa-A1 ,-B1 ,-D1)のうち、いずれもB1及びD1酵素の遺伝子を変異型とし、それら酵素が欠失した小麦を開発した。日本製粉株式会社イノベーションセンターとの加工利用に関する共同研究により、同小麦はでんぷんの老化耐性が高く、加工製品(パンやうどん)が長時間経過しても硬くなりにくい特性を持つことを明らかにし、Slow Staling Wheat(低硬化性小麦)と名付けた。そこで、西日本地域で広く栽培され、めんや菓子用に利用される「シロガネコムギ」を戻し交雑親として、GBSSI-B1GBSSI-D1SSIIa-B1SSIIa-D1の4遺伝子が変異型であるめん用小麦品種を開発する。

成果の内容・特徴

  • 「にしのやわら」は、「シロガネコムギ」を戻し交配親として育成したGBSSI全欠失型準同質遺伝子系統を母、SSIIa全欠失型準同質遺伝子系統を父として交配を行い、初期世代にてDNAマーカーによりGBSSI-B1GBSSI-D1SSIIa-B1SSIIa-D1の4遺伝子が変異型である遺伝子型選抜を実施し、以後系統育種により育成された「シロガネコムギ」の従属品種である。
  • 「シロガネコムギ」と比較して、出穂期と成熟期は同程度の早生種で、稈長は2cm程度長いが、倒伏程度は同等で耐倒伏性がある(表1)。穂数がやや多くやや多収である(表1)。粒質は「シロガネコムギ」は粉状質であるが、「にしのやわら」は中間質である。容積重がやや大きく、千粒重と外観品質は同程度である(表1)。
  • 播性程度は"II"、穂発芽性は"やや易"、縞萎縮I型抵抗性は"やや強"、うどんこ病抵抗性は"中"、赤かび病抵抗性は"中"である(表2)。
  • 「シロガネコムギ」と比較して、原粒のタンパク質および灰分含量は同等である(表3)。穀粒硬度と製粉歩留がやや高く、製粉性が優れる(表3)。ファリノグラムの吸水量は「シロガネコムギ」より多いが、生地物性は同程度である(表3)。60%歩留の粉のアミロース含量は低く、糊化特性の最高粘度とブレークダウンが「シロガネコムギ」より大きい(表3)。
  • うどん官能評価では、基準の「きたほなみ」や「シロガネコムギ」は製造3日後にはでんぷんの老化が進むのに対し、「にしのやわら」はでんぷんの老化が遅いため、製造1日後より製造3日後で、相対的に「にしのやわら」の食感の官能評価が高くなる(表4)。

成果の活用面・留意点

  • 春播き型の早生種であるので、適期播種に努め極端な早播きは避ける。
  • 穂発芽し易いので刈り遅れないようにすること。
  • 福岡県で産地品種銘柄(選択銘柄)に設定され、普及が進められる予定である。

具体的データ

表1 「にしのやわら」の生育特性、収量性および子実特性,表2 「にしのやわら」の特性検定試験 (2013、2016~2017年度の総合判定),表3 「にしのやわら」の製粉性および小麦粉の品質,表4 実需者によるうどん官能評価試験

その他

  • 予算区分:交付金、その他外部資金(資金提供型共同研究)
  • 研究期間:2007~2020年
  • 研究担当者:
    中村和弘、境哲文、平将人、谷中美貴子、松中仁、杉田知彦、塔野岡卓司、西尾善太、河田尚之、藤田雅也、八田浩一、久保堅司、小田俊介、中村俊樹、石川吾郎、齋藤美香
  • 発表論文等:中村ら「にしのやわら」品種登録出願公表第33441号(2018年10月24日)