からしなの湿式加熱調理に伴う機能性成分の変動

要約

からしなを湿式加熱調理する際、水溶性の機能性成分であるGABA(γ-アミノ酪酸)の損失を抑えるためには茹で加熱より短時間の蒸し加熱を行う方が望ましい。また、シニグリンの損失を抑えるためには90秒以上の蒸し加熱が有効である。

  • キーワード:からしな、グルコシノレート、ミロシナーゼ、GABA、湿式加熱調理
  • 担当:九州沖縄農業研究センター・作物開発利用研究領域・作物品質グループ
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

2015年4月より生鮮農産物においても機能性を表示することが可能となり、血圧降下作用、ストレス軽減作用などの種々の生理機能性を有するGABAを関与成分とする生鮮食品が多く上市されている。からしなは沖縄県ではしまなとも呼ばれ、沖縄県で消費量の多い葉菜類であるが(図1)、GABAを含んでいるため、機能性表示による付加価値向上が期待できる。また、からしなはグルコシノレートの一種であるシニグリンも含有しており、からしなの内在性あるいは腸内細菌由来の酵素ミロシナーゼによる分解でシニグリンから生成するアリルイソチオシアネートについて解毒・抗酸化酵素誘導、抗菌作用などが報告されていることから種々な生理機能性を有する可能性がある。からしなは生食することは少なく一般的に加熱調理して食するため、生鮮状態での含量のみならず調理加工の過程における機能性成分の損失についても考慮する必要がある。しかし、溶出、加熱や酵素による分解など、調理加工中に生じうる成分含量の変動を報告した例はほぼなく、知見の蓄積が課題となっている。そこで、本研究においては一般家庭に即した調理条件下でのからしなの機能性成分含量の変動について分析を行うことで、からしなの機能性成分の損失を抑制して摂食するために効果的な湿式加熱調理の条件を解明する。

成果の内容・特徴

  • からしなに含まれるGABAは湿式加熱により減少するが、60秒の加熱であれば蒸し加熱の方が茹で加熱よりも減少度合いは小さく抑えられる(図2)。
  • シニグリンは蒸し加熱では含量が維持されるものの、茹で加熱では加熱時間の増加に伴い溶出のため減少する傾向にある(図3)。また、90秒以上の蒸し加熱、60秒以上の茹で加熱では酵素反応がある場合とない場合でのシニグリン含量に有意差はないため、内在性のミロシナーゼはおおむね失活すると推測される。シニグリンから生成するアリルイソチオシアネートは不安定な揮発性成分であるため、ミロシナーゼの失活によって調理後のシニグリンおよびアリルイソチオシアネートの減少を抑えられると考えられる。
  • からしなの温度変化については、蒸し加熱の方が温度上昇は緩慢であるのに対し、茹で加熱では比較的急な温度上昇であり、酵素失活に要する時間などに影響していると考えられる(図4)。

成果の活用面・留意点

  • 沖縄在来のからしな種子を購入し(商品名:しまな、(有)フタバ種苗)沖縄県農業研究センター(糸満市)にて栽培したからしな(80~150g)を調理加工試験に用いた。非可食部である根の切除以外には切裁操作は行っていない。
  • 蒸し加熱は水蒸気の上がった蒸し器にからしなを投入し、蓋を閉めた時点を加熱開始(0秒)とした。茹で加熱は茹で水中にからしなを浸けた時点を加熱開始とした。家庭での調理法に準じ、加熱開始から30秒間熱の伝わりにくい茎部(下部分)のみ熱湯に浸け、その後全体を浸漬した。
  • 調理に用いるからしなの大きさによる熱伝導度合いの差異や、切裁の有無による成分溶出の違いが生じることで成分含量の変動に影響を及ぼす可能性がある。
  • GABA、シニグリンともに栽培時期による含量の変動も考慮する必要がある。

具体的データ

図 1 沖縄県農業研究センターで栽培されたからしな,図 2 GABA含量に対する加熱方法および加熱時間の影響,図 3 シニグリン含量に対する加熱方法および加熱時間の影響,図 4 異なる調理法での加熱時間に伴う温度の変化

その他

  • 予算区分:交付金、委託プロ(機能性発掘)
  • 研究期間:2018~2020年度
  • 研究担当者:石川千秋、澤井祐典、西場洋一、棚原尚哉(沖縄県農研セ)
  • 発表論文等:石川ら(2020)日食科工誌、67(12):474-482