テキストマイニングと自己組織化マップによる農産物のリピート購入理由の把握

要約

国産マンゴーなど新規導入農産物のリピート購入理由について、アンケートの自由回答データを用いた自己組織化マップとjaccard係数を組合せて分析することにより、産地ごとに回答の特徴を把握でき、産地の差別化方策を提案できる。

  • キーワード:テキストマイニング、自己組織化マップ、jaccard係数、リピーター
  • 担当:九州沖縄農業研究センター・作物開発利用研究領域・6次産業化グループ
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

国内で目新しい農産物の導入・定着を図るには、栽培技術の確立だけでなく、消費者の需要と消費拡大、それも一時的なブームに終わらない定着・拡大を目指す必要がある。このためには、リピート購入理由を明らかにした上で、リピーターを増やすことが有効である。しかし、馴染みのない農産物の場合、選択式アンケートでは、的確な消費者評価を得るための設問や選択肢の設定が困難である。
そこで、国産マンゴーを対象に、自由回答式のアンケートを実施するとともに、得られたテキストデータについて、自己組織化マップとjaccard係数を用いた分析を適用し、産地ごとのリピート購入理由の特徴を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 国産マンゴーのリピート購入理由を明らかにするため、2017年2月に首都圏在住者を対象にインターネット上でアンケートを実施し(有効回答515件、うち男性260人、女性255人で、平均年齢は48.0歳)、宮崎産、沖縄産(本島産)、宮古島産のマンゴーをリピート購入した理由を記入式で回答してもらった。得られたデータについて、テキストマイニングにより形態素(語の最小単位)に分解し、以下の分析をした。
  • 産地ごとに、jaccard係数(ある語とある語の共起性を示す係数で、0から1までの値をとり、関連が強いほど1に近づく)と自己組織化マップ(n次元のデータの類似度を2次元上の距離で表す。類似度の高い形態素同士が近くに附置される)を組合せて分析した。宮崎産マンゴーの場合、jaccard係数の大きい語、つまり宮崎産マンゴーと関連の強い語(特徴語)は、自己組織化マップ上のクラスター①⑤⑥を中心に附置されている(表1、図1)。①からは自宅用や贈答用として人気であることが、⑤からは家族が喜ぶことが、⑥からはブランド(力)と味に関する高い評価が、リピート購入の理由である。さらに⑥を詳しく見ると、宮崎産マンゴーのブランド(力)は、美味しさに加え、高級(感)や産地(名)と類似度が高く、「すごい」と評価されていることが分かる。
  • 沖縄産マンゴーでは、特徴語が特定のクラスターに偏らず、分散している(表1、図2)。「安い」「やすい」「価格」「手頃」といった価格に関する特徴語が出現しているのが、沖縄産のリピート購入理由の特徴である。さらに、②の「沖縄」の近くに「土産」が出現しており、隣接する①には「旅行」が出現している。このことから、リピーターは、「旅行」した際の「土産」として沖縄産マンゴーをリピート購入していると考えられる。
  • 宮古島産マンゴーの特徴語は、⑦に集中している(表1、図3)。⑦の特徴語の「連絡」の近くに、「懐かしい」と「注文」が附置されていることから、産地から連絡を受け、懐かしさからリピート購入していることが分かる。さらに⑦では、「懐かしい」に加えて「思い出す」「思い入れ」という、感情に結びついた語が見られることから、宮古島産マンゴーは、宮崎産、沖縄産に比べ、エモーショナルな理由でリピート購入されることが多いと言えよう。
  • 以上より、国産マンゴーのリピート購入理由は、産地によって異なることが把握できた。したがって、アンケートの自由回答を基に、自己組織化マップとjaccard係数を組合せて分析することで、特定の産地への回答の特徴を明らかにすることができる。
  • また、リピート購入理由からは、他産地との差別化によるリピーター増加策が検討できる。例えば、新規導入農産物は、高級ブランド化による差別化方策が取られることが多いものの、沖縄産マンゴーのように相対的に安価であることを理由にリピート購入されるケースもあることから、高級化だけが差別化方策ではないことが分かる。

成果の活用面・留意点

  • 生産者や生産者団体、行政等が、地域への目新しい農産物の導入や消費拡大に向けたマーケィング方策を検討する際に活用できる。
  • テキストマイニング、自己組織化マップの作成、jaccard係数の算出には、KH Coder等のテキストマイニング用ソフトが必要である。
  • 発表論文等1)では、国産マンゴーの市場価格、産地別の購入経験、リピート購入パターン、産地別購入場所についても言及している。

具体的データ

表1 各産地のリピート購入理由として抽出された特徴語の自己組織化マップ上の位置とjaccard係数,図1 宮崎産マンゴーをリピート購入する理由(自己組織化マップ),図2 沖縄本島産マンゴーをリピート購入する 理由(自己組織化マップ),図3 宮古島産マンゴーをリピート購入する理由(自己組織化マップ)

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2018~2019年度
  • 研究担当者:大西千絵
  • 発表論文等:大西(2019)農業市場研究、28(2):42-48