マルチプレックスPCRによるイネウンカ類3種の簡易識別法の開発
要約
4種類のプライマーを同時に用いるマルチプレックスPCR法により、水稲の重要害虫であるイネウンカ類3種を簡易識別する手法である。イネウンカ類1個体につき1回のPCRで、個体の発育ステージを問わず、種の識別が可能となる。
- キーワード:イネウンカ類、水稲害虫、種の識別、マルチプレックスPCR
- 担当:九州沖縄農業研究センター・生産環境研究領域・虫害グループ
- 代表連絡先:
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
アジア地域における水稲の重要害虫であるイネウンカ類には、トビイロウンカ、セジロウンカ、ヒメトビウンカの3種が含まれる。イネウンカ類は種によって被害発生リスクや殺虫剤に対する抵抗性の発達度合いが異なっており、発生調査では種ごとに発生の有無や発生個体数を正確に把握する必要がある。しかし、イネウンカ類3種は日本の水田において同時に発生することが多く、幼虫(特に若齢幼虫)では形態が酷似しているため種の識別が難しい。イネウンカ類3種を対象とした遺伝子情報に基づく既存の識別法では、複数回のPCRが必要、もしくは1回のPCR(一つの PCR 反応系に複数のプライマー対を同時に使用するマルチプレックスPCR)で識別する場合には蛍光プローブを使用し解析を行う必要がある。そこで、本研究では、蛍光プローブを必要としないマルチプレックスPCR法により、簡易的にイネウンカ類3種を識別する手法の開発を行う。
成果の内容・特徴
- 5.8SリボソーマルRNA遺伝子に設計したイネウンカ類共通のフォワードプライマーとITS2領域に設計したイネウンカ類各種に特異的なリバースプライマーを用いたマルチプレックスPCRにより、PCR産物長の違いに基づいてイネウンカ類3種を識別できる(図1)。
- 本識別法は複数回のPCRや蛍光プローブを必要とせず、既存のイネウンカ類3種の遺伝子情報に基づく識別法に比べ、低コスト化・省力化されている。
- 本識別法は成虫、老齢幼虫、若齢幼虫といった個体の発育ステージを問わず、種の識別が可能である(図1)。
- 本識別法はイネウンカ類の発生量調査に用いられる粘着板払い落し法で得られた個体の種の識別にも利用可能である(図2)。また、水田でイネウンカ類と同時に見られウンカに近縁の昆虫であるヨコバイ類は形態によるイネウンカ類との識別が比較的容易であるが、体の一部欠損などによって誤ってサンプルに混入した場合でも、本識別法ではイネウンカ類として識別されることはない(図2)。したがって、発生量調査の際に本識別法を利用することで、若齢幼虫個体を含めたイネウンカ類各種の発生の有無を正確に確認することが可能となる。
成果の活用面・留意点
- 本識別法はイネウンカ類が発生する全国都道府県の病害虫防除所において活用できる
- 粘着板払い落し法で捕獲された個体を粘着板ごと保存する場合、冷蔵保存(例えば4°C)であれば2日以内、冷凍保存(-20°C以下)であれば1年以内の保存を推奨する
- 本識別法はイネウンカ類以外の種(通常は水稲では発生しない)からイネウンカ類各種(トビイロウンカ、セジロウンカ、ヒメトビウンカ)を識別する目的では使用できない
- 技術情報については上記連絡先にて対応する
具体的データ

その他
- 予算区分:交付金
- 研究期間:2019~2020年度
- 研究担当者:矢代敏久
- 発表論文等:矢代、特願(2020年8月31日)