イミダクロプリドで選抜したトビイロウンカにおける寿命の短命化および産卵数の減少
要約
同一のトビイロウンカ個体群からイミダクロプリドで選抜した系統では、アセトンで選抜した系統に比べて、イミダクロプリドに対する感受性が低下し、短命、少卵となる。トビイロウンカではイミダクロプリド抵抗性を発達させると適応度コストが生じる。
- キーワード:ネオニコチノイド系殺虫剤、薬剤抵抗性、トレードオフ、
- 担当:九州沖縄農業研究センター・生産環境研究領域・虫害グループ
- 代表連絡先:
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
薬剤抵抗性を発達させる害虫は、成虫期の寿命や産卵数の低下、幼虫発育期間の延長などの生活史形質に対して犠牲(以下、適応度コスト)を払う。害虫個体群の生活史形質を基に算出した個体群成長のパラメーターは、薬剤の使用を中止した後に、害虫個体群の薬剤感受性が回復するか否かの指標となる場合がある。トビイロウンカのイミダクロプリド抵抗性発達に伴う適応度コストの先行研究では、異なる遺伝的背景をもつ薬剤抵抗性および感受性の個体群を比較したため、適応度コストとして観察された繁殖形質に遺伝的浮動の可能性がある。そこで、遺伝的背景が同じ個体群から、人為的にイミダクロプリドの半数致死薬量(LD50)を用いて選抜した系統(イミダクロプリド選抜)と、アセトンで選抜した感受性系統(対照)を作出し、両系統の生活史形質を比較し、トビイロウンカの繁殖力に対する影響(以下、純繁殖率)を求め、イミダクロプリド抵抗性発達による適応度コストを検出する。
成果の内容・特徴
- フィリピンおよびベトナム個体群のそれぞれから作出したイミダクロプリド選抜系統のLD50(164.6-212.9 μg/g)は、対照系統(8.61-81.8μg/g)より、2.6-19.1倍有意に高い。
- フィリピン個体群由来のイミダクロプリド選抜系統では、同個体群由来の対照系統より成虫期の寿命が短く、生涯産卵数は少ない(図1、2)。ベトナム個体群のイミダクロプリド選抜系統においては同様の傾向が見られる。
- 一方、卵の期間と孵化率、幼虫発育期間、産卵前期間にはイミダクロプリド選抜系統と対照系統の間に有意な差はない(表1)。
- フィリピン個体群由来のイミダクロプリド選抜系統の純繁殖率は、同個体群由来の対照系統のそれの約半分、ベトナム個体群のそれらは半分以下であり、イミダクロプリド抵抗性を発達させると適応度が低下するコストが生じることを示す(表2)。
成果の活用面・留意点
- 薬剤抵抗性発達に伴う繁殖形質(寿命と産卵数)に関する適応度コストは、他のネオニコチノイド系薬剤抵抗性害虫でも報告されている(例えば、チアメトキサム抵抗性/タバココナジラミ)
(Feng et al.(2009)、J. Appl. Entomol. 133: 466-472)。
- トビイロウンカの飛来源であるベトナム北部や中国南部において、ウンカの防除にイミダクロプリドの使用を一定程度制限するなど、本剤感受性の回復を想定した対策が有効である。
具体的データ

その他
- 予算区分:交付金、委託プロ(次世代ゲノム)
- 研究期間:2017~2019年度
- 研究担当者:藤井智久、真田幸代、松村正哉(九沖研)、松倉啓一郎(生物研)
- 発表論文等:Fujii et al. (2020) J Econ Entomol.113: 1963-1971. doi: 10.1093/jee/toaa120.