水稲に被害をもたらすフェーン注意情報の作成と発信
要約
領域気象モデルを用いた地上気象予報に基づき水稲に被害を及ぼすフェーン注意情報を作成、発信するシステムを構築した。現地では本注意情報の活用により事前に対策を講じることが可能となるため、水稲のフェーン被害低減に有効と期待される。
- キーワード:フェーン、乳白粒、蒸散強制力、警報モデル、領域気象モデル
- 担当:九州沖縄農業研究センター・生産環境研究領域・農業気象グループ
- 代表連絡先:
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
平成19年南九州の早期水稲、令和元年新潟県産米などフェーンにより水稲作が大きな被害に見舞われることがある。夏季のフェーンは台風の接近や通過にともない発生する場合が多い。温暖化の進行により海水面温度が高く維持され、台風の勢力が衰えないまま日本列島に接近するケースが多くなっており、フェーンの強大化と水稲被害の増大が危惧される。そこで、水稲のフェーン被害を低減させるため、フェーン到来を事前に予測、現地へ情報伝達できる仕組みを整えることにより、現地でフェーン対策を講じる時間的余裕を生み出すことを目的とする。
成果の内容・特徴
- 山を越えて低平地へ吹き下ろす高温で低湿な強風(フェーン)の程度を定量化するため、以下に示す蒸散強制力(FTP)を導入すると、地上におけるフェーンの吹走状況を可視化することが可能となる(図1)。
ここで、Da:大気飽差(hPa)、U:風速(m/s)、es:飽和水蒸気圧(hPa)、e:水蒸気圧(hPa)
- 出穂期の異なる水稲品種の作期移動試験から、水稲のフェーンへの遭遇のタイミングと玄米品質との関係は、日中のFTP最大値が50を超える昼間型フェーン、夜間を通してFTPが常に10を越える夜間型フェーンとして区別し解析した。水稲が出穂期後10から20日間に夜間型フェーンに遭遇した場合にのみ乳白粒の増大が起こる(表1)。
- 現地圃場における乳白粒発生率と領域気象モデルWRFを利用した過去のフェーンの再現結果をから、出穂後遭遇した夜間型フェーンの程度と乳白粒発生率との関係を示す(図2)。夜間に遭遇した積算FTPが大きくなるほど乳白粒の発生率が高くなる場合が多い。乳白粒の自然発生率が2%程度とすると、積算FTPが100(時間平均で約10)程度から乳白粒が増加する事例がみられることから、以下に示すフェーン警報モデルにより判定する。
FTP≥10(19h∼5h)
- 水稲フェーン被害注意情報は、領域気象モデルWRFを用いた水平解像度1kmの九州地方北西域の地上気象予報値から上記警報モデルに基づき、3日前から当日分までのマップ(図3)として作成され、栽培管理支援システムを通じ配信される。
成果の活用面・留意点
- 領域気象モデルWRF (ワーフ:Weather Research and Forecasting)は、NCAR(米国大気研究センター)、NCEP(米国海洋大気庁予測センター)を中心に開発が進められている学術研究と天気予報業務の両方に対応した最新の数値予報モデルである。
- 秘密保持と風評被害防止のため、フェーンの被害を受けた図2の水稲品種、被害発生時期、地点は公開しない。
具体的データ
その他
- 予算区分:交付金、その他外部資金(SIP)
- 研究期間:2014~2020年度
- 研究担当者:柴田昇平、望月遼太
- 発表論文等:柴田(2021)BIO九州、第230号:21-26