温暖化条件下で威力を発揮する水稲の再生能力を活かした米の飛躍的多収生産技術

要約

水稲の再生二期作栽培では、多肥条件下で生育させた多収品種・系統の1回目の稲を十分に成熟させた時期に地際(株元)から高い位置で収穫することで、切株に残る非構造性炭水化物や緑葉が多くなり、1回目稲と2回目稲の合計で極めて高い収量が得られる。

  • キーワード:水稲、再生二期作、収穫時期、収穫高さ、非構造性炭水化物、緑葉
  • 担当:九州沖縄農業研究センター・水田作研究領域・水田栽培グループ
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

九州地域は、国内のほかの地域に比べ、春や秋の気温が高く水稲の生育可能な期間が長い、つまり、早く移植して遅く収穫できるといった特徴がある。更に近年、地球温暖化の影響で春や秋の気温も上昇しており、今後、生育可能期間が一層長くなると予想される。そこで本研究では、水稲の生育可能な期間が長いといった九州地域の地の利を活かした再生二期作において、1回目の稲の収穫時期や高さが、4月に田植えして8月に収穫する1回目の稲及び11月に収穫する2回目の稲の収量に及ぼす影響を、近年研究用に開発された多収系統を用いて明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 1回目の稲の収穫時期については、遅刈(出穂からの積算温度1200°C )すると、1回目の稲は早刈(出穂からの積算温度900°C)に比べて登熟が良くなり、大幅に増収する(図1a、b、3)。また、このときの2回目の稲は、早刈に比べて出穂が遅れ、気温の低下により登熟が悪くなるものの、成長に利用可能である非構造性炭水化物(NSC)が切株に多く残る(図1c、d)影響で籾数が減少せず、小幅な減収に留まる(図1a、b)。このため、1回目の稲を遅刈すると、1回目の稲と2回目の稲の合計収量は増加する。
  • 1回目の稲の収穫高さについては、高刈(地際から50cm)すると、2回目の稲は低刈(地際から20cm)に比べ、非構造性炭水化物や緑葉(葉面積指数、LAI)が切株に多く残る(図1e、f、図2)影響で籾数が増加するとともに登熟も良くなり、大幅に増収する(図1a、b、4)。
  • 以上のことから、1回目の稲を十分に成熟させた時期に地際から高い位置で収穫することにより、1回目の稲と2回目の稲の合計で多収となる(図1a、b、3、4)。

成果の活用面・留意点

  • 本成果は、福岡県筑後市で平年に比べて気温の高かった2017年及び2018年に実施した試験の結果をまとめたものである。このため、筑後市に比べて温暖な地域では、2回目の稲の登熟向上を介して増収する可能性があり、また寒冷な地域では、2回目の稲の登熟低下を介して減収する可能性がある。
  • 試験には、東北地域向けの多収品種「べこあおば」と関東以西向けの多収品種「北陸193号」を交配した後、「北陸193号」をもう一度交配した後代から選抜した系統(「北陸193号」に比べ早生)を用いた。なお「北陸193号」は、再生能力に優れるため、2回目の稲の登熟気温を確保できる地域では使用できる。
  • 気象条件に恵まれた2018年には、1.47t/10aの粗玄米収量(精玄米収量で1.44t/10a)に達した。

具体的データ

図1 1回目稲及び2回目稲の精玄米収量(a及びb)、切株の非構造性炭水化物(NSC)量(c及びd)及び葉面積指数(e及びf)(2017年及び2018年),図2 1回目稲を遅刈した試験区における収穫直後の切株(a及びc)及び登熟中期の2回目稲(b及びd),図3 1回目稲の収穫時期が1回目稲の収量に及ぼす影響の概念図,図4 1回目稲の収穫高さが2回目稲の収量に及ぼす影響の概念図

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2017~2018年度
  • 研究担当者:中野洋、田中良、和田博史、岡見翠、中込弘二、羽方誠
  • 発表論文等:Nakano H. et al. (2020) Agron. J. 112:3975-3992