大豆作の単収が減少する中でも総合生産性(全要素生産性)は上昇している

要約

生産量を全投入量で割った大豆作の総合的な生産性は、単収が減少する中でも上昇しており、生産技術の進歩を示唆する。都府県はこの全国値と同様の傾向を示すが、北海道は単収と総合生産性の両方を上昇させており、近年、これらの値の地域間差は拡大する傾向がある。

  • キーワード:大豆、総合生産性、全要素生産性、単収、技術進歩
  • 担当:九州沖縄農業研究センター・生産環境研究領域・土壌肥料グループ
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

大豆は水田の転作や畑地の輪作のために重要な作物であるが、単収(単位面積当たりの収量)の全国値は、積極的な技術開発や普及政策にも関わらず、1980年代から低迷している。その要因として生産技術水準の停滞が疑われるものの、これら単収や技術進歩の動向に関する定量的な分析事例は少ない。そこで本研究は大豆生産費統計を用いて、生産量を全投入量で割った総合生産性(全要素生産性;Total Factor Productivity、TFP)をトルンクビスト指数により計測して、技術水準を示唆する総合生産性と単収の動向を全国、北海道及び都府県の3区分で明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 総合生産性の全国値は、単収が年あたり0.014t/ha減少する中でも、年毎に0.9%ずつ増えるペースで上昇しており(図1(a)、(b)、表1の傾きの値)、この上昇は生産技術の進歩を示唆する。
  • 都府県は全国値と同様の単収の減少と生産性の上昇を示すが、北海道では両方の値が上昇(年0.013t/haと1.0%)している(図1、表1)。単収の増加は生産量の増加を通じて総合生産性の上昇につながるため、この結果は両地域間で生産性の上昇(技術進歩)の要因が異なることを示唆する。
  • 時系列トレンドの変化を示すChow検定の結果、北海道では2009年以降に総合生産性と単収の上昇ペースがさらに増加した一方で、都府県では変化しないか又は鈍化していることから(表2の傾きの値)、両値の地域間差は一層拡大する傾向がある。同時期から、北海道の面積あたりの生産投入量は全ての要素(農薬・肥料等の経常財、機械、労働)で都府県より大きいことから(図1(c)~(e))、都府県より集約的な生産法を採りながら大きな総合生産性の上昇を実現している。
  • 北海道の総合生産性は特に5.0ha以上の層で年毎に2.5%ずつ増える大きな上昇トレンドを示す(表3の傾きの値)。都府県では多くの規模層が下降トレンドを示すが、経年的な規模拡大により相対的に総合生産性の高い2.0ha以上の層が増加して(図1(f)、表3の切片、傾きの値)、2の都府県全体の上昇トレンドが生じると思われる。

成果の活用面・留意点

  • 政府統計を利用して大豆作の単収低迷と技術進歩の要因(品種、作付規模、圃場整備等)を定量的に分析するための基礎的な成果である。
  • 本成果の総合生産性とは、生産量(対数値)と各生産要素のコストシェアで加重平均した全投入量(対数値)の比を表す全要素生産性であり、トルンクビスト指数により算出したサンプル平均が概ね1の値である。この値の0.01の増加は、総合生産性の1%の上昇に相当する。
  • 本成果で言う技術進歩には規模の拡大や各種生産要素の変化等に伴なう様々な進歩を含む。
  • 本成果は1987~2015年の全国・北海道・都府県の作付規模別の大豆生産費統計を分析した結果であり、他の年代、統計および個別事例には適合しない可能性がある。

具体的データ

図1 大豆作の単収、各種の生産要素投入量及び全要素生産性(TFP)の動向,表1 年変数(1987年=1)に対する大豆作の単収(t/ha)と総合生産性(TFP値)のトレンド回帰,表2  Chow検定に基づく単収(t/ha)と総合生産性(TFP値)のトレンド回帰分析,表3 大豆作の作付規模層における総合生産性(TFP値)のトレンド回帰

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(科研費)
  • 研究期間:2015~2020年度
  • 研究担当者:小林創平、國光洋二
  • 発表論文等:
    • 小林、國光(2016)農業経済研究、88:173-177
    • 小林、國光(2021)農業経済研究、印刷中