ロボット農機を利用した協調作業が大規模水田作経営に与える影響

要約

ロボット農機を利用した協調作業の導入は、水田作経営の経営面積を13.2%拡大可能にし、それにより農業労働報酬を16.4%向上させる。作付面積の拡大が想定できる水田作経営において、労働力に制約がある状態でロボット農機の導入を検討する際に活用できる。

  • キーワード:ロボット農機、協調作業、水田作、経営的評価
  • 担当:本部・農業経営戦略部・経営計画ユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-8394
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

大規模水田作経営は、今後の農地集積の受け皿として期待される一方で、面積拡大にともなう労働力の確保を図りながら生産性の向上が求められている。これに対する対応としてロボット農機を利用した協調作業が注目されている。しかし、その利用には高額な追加投資が発生するために、水田作経営への費用対効果に基づく経営的評価が求められている。そこで、線形計画法を用いて、ロボット農機を利用した協調作業による作業時間の削減効果を組み込んだ規範的な水田作経営モデルを構築し、そのモデルを用いたシミュレーションにより、ロボット農機による協調作業が大規模水田作経営の収益や生産費へ与える影響を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • ロボット農機を利用した協調作業は、同一あるいは連続した組作業の先行作業を無人化することで、作業者1人による農機2台作業を実現でき、これにより作業時間を削減できる。また、補助者を利用した水稲の田植でも、組作業人数を減少させることで、作業時間を削減できる。その削減効果は、利用する農機、作業体制、ほ場条件等で異なるが、各作業の10a当たり作業時間を10~40%削減することが期待できる(表1)。
  • ロボット農機を利用した協調作業の導入は、130haで作付面積の限界を迎える水田作経営に対して、148haまでの作付面積の拡大(13.2%増)を可能にし、それによって常時従事者1人当たり農業労働報酬を680万円(16.4%増)にまで向上させる(図1)。
  • 作付面積13.2%拡大に対するロボット農機への投資額がない場合は、農業労働報酬を26.2%向上できる。一方、作付面積の拡大前と同じ農業労働報酬(2,337万円)を維持するには、ロボット農機の減価償却費の増加額を612万円未満に抑える必要がある。また、作付面積の拡大前と同じ利益率(22.8%)を維持するには、その増加額を265万円未満に抑える必要がある(図2)。
  • ロボット農機を利用した協調作業の導入によって、60kg当たり生産費の削減が期待できる(図3)。削減の主な要因は、作付面積の拡大にともなう減価償却費を中心とする固定費の削減である。

成果の活用面・留意点

  • 作付面積の拡大が期待される水田作経営でロボット農機の導入を検討する際に活用できる。
  • トラクタ、田植機、自脱型コンバインを体系的に導入していることを前提とした結果であり、部分的に導入した場合は、十分な面積拡大と収益向上の効果が得られない可能性が高い。
  • 対象としたロボット農機は、無人状態での自律走行が可能な農機であり、実証試験では、使用者が常時監視をしながら、非常時に操作ができる状態で実施している。これは、農業機械の安全性確保の自動化レベル2(「農業機械の自動走行に関する安全性確保ガイドライン(概要)」(2018年3月27日)参照)相当の状態である。
  • 協調作業による作業時間の削減時間は、隣接ほ場での実証に基づくため、ほ場間の移動時間はほとんど影響を受けておらず、また農機庫からほ場までの移動も考慮されていない。

具体的データ

表1 ロボット農機を利用した協調作業による作業時間の削減効果,図1 協調作業の有無による水田作経営の面積と収益への影響,図2 ロボット農機の追加投資額が与える水田作経営の収益への影響,図3 協調作業の有無による農産物生産費(60kg当たり)への影響

その他

  • 予算区分:交付金、その他外部資金(SIP)
  • 研究期間:2016~2019年度
  • 研究担当者:松本浩一、島義史、宮武恭一
  • 発表論文等:松本(2019)関東東海北陸農業経営研究、110:71-76