水田作経営におけるロボット農機の利用に対する線形計画法による経営的評価手法
要約
水田作経営におけるロボット農機の利用効果を経営全体の費用・便益の視点から定量的に評価できる手法である。経営面積の拡大の可否等、営農条件の違いに応じた評価を行うことで、営農現場に即したロボット農機の利用方法を検討する際に活用できる。
- キーワード:水田作経営、ロボット農機、経営的評価、線形計画法
- 担当:本部・農業経営戦略部・経営計画ユニット
- 代表連絡先:電話 029-838-8874
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
農業・食品分野における「Society5.0」の実現に向け、スマート農業技術の現地実証と社会実装が推進されている。そこでは、スマート農業技術の導入と利用に関わる費用対効果の検証が求められている。したがって、スマート農業が社会的に進展するためには、スマート農業技術の導入と利用が農業経営に与える影響を費用・便益の視点から評価する必要がある。そこで、各種のスマート農業技術のうち、水田作経営において利用の期待が高いロボット農機(無人状態で自律走行できる農機)を取り上げ、その利用に対する経営的評価手法を提示する。
成果の内容・特徴
- ロボット農機の利用に対する定量的評価は、(1)評価対象の明確化、(2)技術的効果の把握、(3)線形計画モデルの構築、(4)利用前後の試算・比較考察の手順で実施する(図1)。
- 「評価対象の明確化」では、利用するロボット農機、それを利用する作目と作業内容、監視方法も考慮した利用方法と利用台数を明確にする(表1)。水田作経営で利用するロボット農機は、主にトラクタ、田植機、コンバインである。作業内容については、利用するロボット農機の機能を踏まえ、適用可能なほ場内作業の範囲を明確にする。特に実施できる作業が多岐にわたるトラクタの作業範囲を明確にすることは重要である。利用台数の設定では、利用方法に加えて、経営面積も考慮する。
- 「線形計画モデルの構築」では、ロボット農機の利用に関わる制約条件式の策定が重要である(表2)。ロボット農機の利用方法に応じて求められる制約条件式も異なるが、共通してロボット農機の利用を踏まえた10a当たり作業時間等の技術係数が必要となる。このため、従来では生産作目単位で整理してきた作業時間に対して、機械操作や補助等の作業者要素、トラクタ、田植機作業、収穫機等の農機要素、耕起、田植、収穫、監視等の作業項目要素などの視点も加えた整理が有効となる。
- 「利用前後の試算・比較考察」では、策定した線形計画モデルによる試算結果を比較考察する。本手法の適用事例によると、(1)ロボット農機の利用による労働時間の削減により、経営面積の拡大と収益の向上が図れる一方(図2)、(2)経営面積が拡大できない場合、ロボット農機の導入にともなう追加費用以外の農業経営収支は大きく変化しないこと、したがって、(3)ロボット農機を利用する際には、削減された労働時間を利用した経営面積の拡大によって、収益の向上につなげていくことが重要であること、が示唆される。
成果の活用面・留意点
- 水田作経営におけるロボット農機の利用を経営的に評価する際に活用できる。
- ロボット農機の利用によって削減される労働時間の活用方法には、新規作目の導入などもある。
- ロボット農機の投資額が明確でない場合、収益の増加額が投資水準の目安となる。
- 本手法では、利用前後の経営収支等の変化を評価軸とするため、ロボット農機の利用にともなう経営データに加えて、それらが利用されていない時の経営データも必要である。
具体的データ

その他
- 予算区分:交付金
- 研究期間:2019年度
- 研究担当者:松本浩一
- 発表論文等:
- 松本(2019)農研機構研究報告、1:33-37
- 松本(2019)農研機構技報、2:22-25
- 松本(2020)関東東海北陸農業経営研究、110:71-76