農業法人の円滑な経営継承に向けたガイドブック

要約

農業法人において計画的に後継経営者の確保・選定から技術・経営者能力の付与、経営者交代を行うためのガイドブックである。継承類型別に、方針決定、就農対策、能力養成対策、世代交代対策の手順ごとのポイントや留意点、取り組み事例を掲載している。

  • キーワード:農業法人、経営継承、マネジメント、後継経営者、継承類型
  • 担当:本部・農業経営戦略部・マーケティングユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-8874
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

農業法人では、次世代への円滑な経営継承が重要な課題となっている。特に事業規模が拡大する中では、経営継承に際して株式等資産の移譲対策だけでなく、後継経営者の確保・選定から技術・経営者能力の付与、経営者交代までの長期的なマネジメントが必要となる。さらに、その進め方は農業法人の形態やどのような経営継承を志向するかによって異なるため、各法人の実態に即した具体的な手順の提示が求められている。そこで、農業法人での取り組み事例の分析をもとに、継承類型別にその手順やポイント、事例を掲載したガイドブックを作成する。

成果の内容・特徴

  • 本ガイドブックでは、経営継承マネジメントの必要性や基本手順を説明した後、類型別・手順別の特徴や留意点、各類型の事例を掲載している(図1)。
  • 経営継承マネジメントは、方針決定、就農対策、能力養成対策、世代交代対策の順に行う(表)。方針決定では、法人の中長期的な経営計画とそれに即して必要となる人材を明確にする。就農対策では、就業条件の整備等を通して人材を確保し、経営継承計画を立てる。能力養成対策では、OJTとOff-JTの組み合わせにより後継経営者の能力を高める。世代交代対策では、必要に応じて経営の代表者を選定するとともに、株式等資産の移譲対策を行う。以上はすべての農業法人に共通する。
  • 継承類型の基本形は「一家族型(就農する後継経営者が1人かつ家族。代表者の選定が不要で、株式移譲は贈与による)」であるが、後継経営者が複数になると代表者の選定が必要となり、また家族外の従業員が加わると株式の移譲への対応が必要となる。その他、経営組織(一戸一法人か協業経営か)や後継経営者の選定方針(血縁を優先させるか否か)、継承の目的(事業の継続か譲渡か)によっても必要なマネジメントは異なるため、該当する類型(大区分4類型及び小区分7類型)に即した対応をとる(表)。集落営農法人についても同様に、後継経営者に家族外の従業員を含むか等の観点から継承類型を選択する。
  • 本ガイドブックで示した手順・ポイントに基づき、A農場(一家族型)では、後継経営者の就農時に継承計画を策定した上で後継経営者への権限移譲を進め、販路開拓や新品種導入を任せるなど能力養成を行っている。その後、世代交代を行うとともに、後継経営者が開拓した販路(ネット通販等)の拡大等により、経営全体の販売金額も就農時の1.4倍に増加している(図2)。また、当初、後継経営者候補がいなかったB農場(適任者選抜型)においても、法人内に検討チームを設けて中期経営計画の見直しや従業員のキャリアパスを内包した組織体制の構築、株式の移譲方針の検討などを行った結果、中堅従業員がキャリアパスを経て経営陣に加わり、早期に経営者の世代交代に至っている(図3)。

成果の活用面・留意点

具体的データ

図1 ガイドブックの構成,表 類型別・手順別の主な経営継承マネジメント,図2 「一家族型」経営継承マネジメントの実施例,図3 「適任者選抜型」経営継承マネジメントの実施例

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2011~2019年度
  • 研究担当者:山本淳子、梅本雅、緩鹿泰子、澤田守、澤野久美
  • 発表論文等:
    • 山本ら(2019)農業経営研究、57(2):17-22
    • 緩鹿ら(2019)農業経営研究、57(2):23-28
    • 梅本ら(2019)農業経営研究、57(2):11-16