有機農業や環境保全に資する水稲の栽培技術の効果的な普及方法

要約

有機農業や環境保全に資する水稲の栽培技術を早期かつ持続的に普及させるためには、対象地域の広範囲で説明会を実施し、栽培要件や買取条件、支援内容などを農業者に広く認知してもらうことや、慣行米よりも高い経済的メリットの実現、普及活動を継続して実施することが有効である。

  • キーワード:有機農業、環境保全、普及方法、コウノトリ米、トキ米
  • 担当:本部・農業経営戦略部・マーケティングユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-7971
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

近年、国や地方自治体の主導により、有機農業や環境保全に資する水稲の栽培技術を普及し、国内で絶滅した生物の野生復帰など特定の生物の生息環境や餌場を創出していこうとする取り組みがなされている。しかし、このような栽培技術は必ずしも順調に普及していない。そこで、このような栽培技術の中でも比較的広範囲に普及しているコウノトリ米(兵庫県)とトキ米(新潟県)を事例として、面積普及率の推移に関するグラフ(普及曲線)を作成して普及過程の特徴を整理する。その上で、普及過程の違いをもたらした要因を分析し、この種の栽培技術を早期かつ持続的に普及させるための普及方法を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 対象技術の普及過程の特徴は、普及曲線の形状を表す3つの指標(始発点、普及速度、近年の普及率)と、それらに影響を与える2つの要因(普及主体に関する要因、普及する技術に関する要因)によって整理できる(図1)。「普及主体に関する要因」に関しては、効果的な普及活動を実施できれば「始発点」は短くなり、「普及速度」は速くなる。「普及する技術に関する要因」に関しては、経済的メリットが大きい、あるいは技術適用の難易度が低ければ「近年の普及率」は高くなる。
  • コウノトリ米とトキ米の普及曲線を比較すると、コウノトリ米はトキ米よりも普及速度は遅いが、普及活動を開始してから10年が経過した以降も普及率が継続的に高くなっているという特徴がある。一方、トキ米は普及活動を開始した当初は急速に普及したが、それ以降は普及率が頭打ちの状態となっているという特徴がある(図2、表1)。
  • コウノトリ米は、農業者が生産を開始した以降の時期における普及活動に力点が置かれており、生産部会を設立して、栽培要件や買取条件、経済的な支援内容、効果的な除草方法などの情報を継続的に提供している。また、販路を継続的に開拓しプレミアム価格を実現することで、慣行米よりも高い経済的メリットを当初から維持している。さらに、実証事業や補助事業によって、技術適用の難易度を低減したことも普及率が高くなり続けている要因である(表2)。
  • トキ米は、農業者が生産を開始する以前の時期における普及活動に力点が置かれており、農業者を対象として島内の広範囲で説明会を実施して、栽培要件や買取条件などの情報提供に積極的に取り組んだため、当初は急速に普及したと考えられる。しかし、農業者を対象とした説明会を生産開始から3年目以降は実施していないことや、地域の一般米と比較して経済的メリットが十分に高くないことも影響して、近年は普及率が頭打ちになっている(表2)。
  • 有機農業や環境保全に資する水稲の栽培技術を効果的に普及させるためには、普及対象地域の広範囲で説明会を実施し、栽培要件や買取条件、支援内容などを農業者に広く認知してもらうことや、導入に際しての不安感・抵抗感等を低減するための継続的な普及活動が求められる。また、地域の一般米と比較して高い経済的メリットを実現する必要がある。

成果の活用面・留意点

  • 有機農業や環境保全に資する栽培技術をこれから普及しようとする地域や、普及が停滞している地域における普及主体が、普及活動の方法を検討する際に活用できる。具体的には、普及活動を行う対象(農業者)や、普及活動の際に農業者に提供する情報を検討する際に活用できる。

具体的データ

図1 農業技術の普及過程に関する分析枠組み,図2 面積普及率の推移,表1 対象事例の概要,表2 普及曲線の形状に影響を及ぼす要因に関する特徴

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(科研費)
  • 研究期間:2017~2019年度
  • 研究担当者:上西良廣、三浦重典、島義史
  • 発表論文等:
    • 上西(2019)農林業問題研究、55:73-80
    • 上西(2019)農業情報研究、28:127-142