農産物・食品の輸出に向けた消費者意識把握へのソーシャルリスニングの適用手順
要約
農産物・食品の輸出に向けた対象国の消費者意識の把握には、ソーシャルリスニングが適用できる。SNS投稿データを収集し、整理・翻訳等の処理を行ったうえで、出現頻度の高い語や抽出語間の関連等の解析を行うという手順になる。
- キーワード:SNS投稿データ、ソーシャルリスニング、消費者ニーズ、輸出
- 担当:本部・農業経営戦略部・マーケティングユニット
- 代表連絡先:電話 029-838-7971
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
日本産の農産物や食品の輸出を促進するためには、輸出対象国において対象品目、あるいは日本産の食品全般に対して消費者がどのような意識・ニーズを持っているかを把握する必要がある。特に農産物・食品の場合は、普段の生活における意識や行動に加えて、何らかの問題が発生したなど非日常時の反応も把握しておくことが重要である。これまでアンケート調査やインタビュー調査等が行われてきたが、問題点として予め用意された質問への回答しか得られない、過去の意識や行動についての正確なデータが得られない、調査費用が高くなる等が指摘されてきた。そこで、日本産農産物・食品に対する海外消費者の意識・ニーズの把握に対して、SNS等のソーシャルメディア上で消費者自ら発信しているデータを収集・分析するソーシャルリスニングの適用可能性を把握する。
成果の内容・特徴
- 一般的なソーシャルリスニング手法を採用し、分析事例A(シンガポールでの日本産サツマイモ・焼イモの評価)及びB(東日本大震災に関わる日本の農産物・食品に対するタイ消費者の意識)をステップ1~5の順に行っている(表1)。ステップ1「データの収集と選定」では検索キーワード、検索言語、対象SNS、取得するデータと期間を設定した上で、キーワード検索により投稿データを収集する。ステップ2「データのクリーニングと翻訳」では、記号や絵文字等を削除した上で、タイ語を英語に翻訳する(分析事例Bのみ)。ステップ3以降はテキストマイニングツールKH Corderを使用し、ステップ3「語の取捨選択」では強制的に抽出する語や使用しない語を設定する。ステップ4「形態素解析と頻出語の抽出」で形態素解析により語を抽出し、出現頻度の高い語等の基本的な特徴を確認する。ステップ5「テキストマイニング手法による分析」では共起ネットワーク分析を行い、抽出語間の関連の強さから投稿内容の傾向を把握する。
- 分析事例Aでは、ステップ4で出現頻度の高い形容詞がsweet、good、soft、tasty、yummy、niceとなり、好ましい評価を示すと考えられる語が続くが(表2)、このうち「sweet」74件の投稿データを確認すると8件(1割程度)は「too sweet(甘すぎる)」であることが把握できる。
- 分析事例Bでは、大きな出来事があると一時的に投稿が増えるが1ヶ月程度で通常の件数に戻っており、対象国消費者の関心の持続期間をある程度推測できると考えられる(ステップ1)、投稿1件あたり語数は2011年(震災等発生)と2018年(タイが福島県産鮮魚を輸入)では2011年の方が多く、相対的な関心が強かったと推測できる(ステップ4)、2011年当時、日本産農産物を懸念する一方で、日本の検査基準等への安心感も見られ、多様な意識が形成されている(ステップ5)等の結果が得られる(表3、図1)。
- 以上から、海外消費者の意識・ニーズ把握には、SNS投稿データを用いたソーシャルリスニング手法が適用できる。ただし、過去の任意の時期のデータは取得できるが、作業に時間を要する。また、ステップ1と2は対象言語を使用可能な者が行う必要がある。
成果の活用面・留意点
- SNS投稿データからは投稿者の年齢・性別等の属性に関する正確なデータが十分得られない場合があるため、属性別の傾向を把握する場合は他の調査手法と併用することが望ましい。
- 投稿データの取得等に関するSNS運営者のポリシーは変更される場合があるため、利用時点での状況を確認する必要がある。
- 行政や試験研究機関等が、農産物の輸出可能性や商品開発方向を検討する際に活用できる。
具体的データ

その他
- 予算区分:交付金
- 研究期間:2018~2019年度
- 研究担当者:ルハタイオパット プウォンケオ、山本淳子
- 発表論文等:ルハタイオパット(2020)関東東海農業経営研究、110:5-13