農業法人における従業員の人材育成・定着のためのガイドブック

要約

農業法人において従業員の育成、定着を図る際のポイントをまとめたガイドブックである。従業員の職務や特性に応じた人材育成をはじめ、従業員の募集・採用、評価などのポイント、及び定着を図るためのツールを記載しており、従業員の育成・定着に活用できる。

  • キーワード:農業法人、農業雇用、従業員、人材育成、労務管理
  • 担当:本部・農業経営戦略部・組織管理ユニット
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

農業法人においては規模拡大に伴い、従業員を雇用する経営体が増加している。これらの農業法人では、雇用経験が少なく、従業員の確保と人材育成、労働環境の整備が重要な課題となっている。特に、多数の従業員を雇用する農業法人においては、経営幹部、農場長などの管理職の確保が必要となる一方で、従業員が途中で離職するケースも多く、人材確保に苦慮している状況にある。そのため、先進的な農業法人の事例分析をもとに、従業員の採用、育成、評価のポイント、及び定着のためのツールを掲載したガイドブックを作成する。

成果の内容・特徴

  • ガイドブックでは、従業員を雇用する際に必要となる採用、育成、評価の一連のポイントとともに、人材育成・定着を図るためのツール、従業員の労働安全に配慮した労務管理のポイントについて記載している(図1)。
  • このガイドブックの特徴は、従業員の職務、特性の違いに着目して、パート従業員、現場リーダー、経営幹部、及び女性従業員の育成のポイントを示している点である(図1)。これらのポイントは、先進事例調査などをもとにしており、雇用経験が少ない農業法人においても、人材育成のポイントを把握することができる(表1)。
  • 従業員の人材育成の際には、従業員の募集・採用、評価が重要となる。そのため、ガイドブックでは、先進事例調査をもとに、従業員の募集・採用、評価の特徴とポイントを記載している(図1)。また、コロナ禍、労働安全に対応したリスクマネジメントなど、従業員を雇用する際に配慮すべき点について解説しており、労働環境の整備に役立てることができる。
  • 従業員の定着に関しては、従業員の職務満足度が重要となるため、従業員の各種職務満足度を把握し、労働環境の改善につなげることができる職務満足度分析ツールについて解説している。この分析ツールを用いることで人材育成、労務管理の改善点が把握でき、具体的な対策を実施することで従業員の定着を促すことが可能になる。
  • ガイドブックのツール、ポイントを活用し、従業員の人材育成、労働環境の整備に取り組んでいる株式会社A社(正社員数69名)では、職務満足度が低い項目について、週休二日制の導入、長期休暇支援制度、各種勉強会などの対策を実施している。その結果、従業員の職務満足度が高まり、離職者が減少し、労働1時間当たりの出荷枝肉重量が増加するなどの経営改善効果が確認できる(図2)。

成果の活用面・留意点

  • ガイドブックは、従業員を雇用している農業法人の経営者、及び従業員を雇用する意向のある経営者が、従業員の確保・育成を図る際に活用できる。また、行政・普及指導機関、及び関係機関が農業法人に対して労働環境の改善支援を行う際に活用できる。
  • ガイドブックは、農研機構マネジメント技術のホームページからダウンロードして使用できる(2020年3月公開予定)。

具体的データ

図1 ガイドブックの構成,表1 従業員の職務、特性に応じた人材育成の主なポイント,図2 A社におけるツール導入前後の経営状況の変化

その他

  • 予算区分:交付金、科研費
  • 研究期間:2016~2020年度
  • 研究担当者:澤田守、澤野久美、田口光弘、山本淳子、山田伊澄
  • 発表論文等:
    • 澤田ら(2018)農業経営研究、56(2):33-38
    • 澤野ら(2018)農業経営研究、56(2):27-32
    • 澤野ら(2019)農業経営研究、57(3):23-28