リョクトウ近縁野生種の新分類体系

要約

リョクトウとその近縁野生種については、分類が混乱している。そこで、種の記載文と基準標本の精査、rDNA-ITS領域の塩基配列、形態の多様性解析の結果に基づく新分類体系を提案する。新分類体系を用いて、ジーンバンク保存遺伝資源を整理し、「JP110836」を新種候補として公開する。

  • キーワード:リョクトウ、作物近縁種、rDNA-ITS、分類、新種候補
  • 担当:遺伝資源センター・植物多様性活用チーム
  • 代表連絡先:029-838-7051
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

リョクトウ(Vigna radiata var. radiata)は主にアフリカ・アジア・オセアニアにおいて栽培されているマメ科作物である。生育期間が短く、様々な作付け体系へ組み込めるため、その重要性が増している。また、近縁野生種は生物的及び非生物的ストレス耐性育種における遺伝資源として期待されている。しかし、リョクトウと近縁野生種に対しては、多くの種名や変種名が発表されており、最近の学術論文においても分類同定に混乱が見受けられる。そこで、本研究ではリョクトウ近縁種の分子系統関係を明らかにし、分類の歴史と形態的特性の解析と併せて新たな分類体系を提案する。

成果の内容・特徴

  • 農業生物資源ジーンバンクが保有するリョクトウ近縁種83系統のrDNA-ITS塩基配列に基づく形態的多様性解析(図1)及び分子系統樹(図2)により、これらは5独立種と新種候補1系統と考えられる。
  • 正確な種名を決定するため、種記載論文の形態記述と基準標本の再同定を行い、同じ種に対して発表された異なる種名・変種名を整理し、その中で発表年代が早いVigna grandifloraVigna mungoVigna radiataVigna subramanianaVigna trinerviaを有効な学名と認め、最近の論文でも使用されているVigna hainianaV. subramanianaの異名、Vigna radiata var. setulosaVigna radiata var. sublobataの異名とする新分類体系を提案する。
  • 同定した5種82系統と新種候補1系統については、種子、発芽特性、幼植物体、托葉、花、柱頭、若莢の形態的多様性の画像(図1)を論文のSupplementary materialで確認できる。これら画像は、種同定の補助資料とすることができる。
  • リョクトウ、ケツルアズキ(V.mungo)のそれぞれの祖先野生種と栽培種を異なる独立種と扱う論文が最近発表されたが、両者は交雑親和性も高く、本解析の結果でもrDNA-ITS塩基配列の類似性が高い。従って、リョクトウとケツルアズキの各祖先野生種は栽培種の変種として扱うことを提案する。
  • 農業生物資源ジーンバンク保存系統「JP110836」は、図1及び図2に示すとおり、リョクトウに最も近縁であるが、遺伝的および形態的に独立した新種候補とする。

成果の活用面・留意点

  • 作物近縁野生種の収集活動が近年最優先課題として進められている。その活動によって国際機関等(IITA、CIAT、ILRI、USDA、AVRDC等)が保存しているリョクトウ近縁野生種遺伝資源に関しても同定に混乱が見られる。論文に掲載された形態分類の検索表を用いて正しい種同定を行うことができる。
  • 解析に用いた5種82系統と新種候補1系統のrDNA-ITS領域の塩基配列情報をDNA Data Bank of Japan(DDBJ)に登録しており、このDNA配列情報は、種同定の補助資料とすることができる。
  • 新種候補「JP110836」をはじめ、解析に用いた系統の多くを農業生物資源ジーンバンクから入手できる。
  • 新種候補「JP110836」は、リョクトウの種間交雑育種における遺伝資源としての利用が期待できる。

具体的データ

図1.リョクトウ近縁野生種の形態比較;図2.リョクトウ近縁種83系統のrDNA-ITS領域塩基配列多型に基づく系統樹

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2015~2017年度
  • 研究担当者:高橋有、武藤千秋、井関洸太郎、内藤健、Prakit Somta(カセサート大学)、Muthaiyan Pandiyan(タミルナドゥ農業大学)、Natesan Senthil(タミルナドゥ農業大学)、友岡憲彦
  • 発表論文等:Takahashi Y. et al. (2017) Genet. Resour. Crop Evol. 1-13 doi.org/10.1007/s10722-017-0599-9