ストレスに強いマメ科野生種の栽培化に向けた突然変異体

要約

ストレスに強いマメ科野生種Vigna stipulaceaから選抜した突然変異体は栽培に適した特徴を持つ。この変異体はストレス耐性のある新規作物開発の素材として利用できる。

  • キーワード:野生植物、栽培化、ストレス耐性、病虫害、マメ科
  • 担当:遺伝資源センター・植物多様性活用チーム
  • 代表連絡先:電話 029-838-7930
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

本研究のねらいは、ストレスに強い野生植物を作物に転換することである。農薬の使用には環境負荷やエネルギー消費の問題があり、病虫害耐性の育種は至上命題の一つである。しかし、多様性を失った主要作物の耐性育種は困難で、開発に成功しても打破されるリスクが付きまとう。一方、作物の栽培化に関わる形質の変化は特定遺伝子の機能欠損によって生じることがほとんどであるため、突然変異育種法を応用すれば野生種の栽培化は短期間で達成できると期待される。そこで本研究では広範囲の病虫害に耐性をもつマメ科野生植物Vigna stipulaceaに突然変異を誘発し、栽培に適した変異体を選抜する。

成果の内容・特徴

  • 本研究ではV. stipulaceaの突然変異集団を3年に渡ってつくば市の実験圃場あるいはビニールハウスで栽培したが、無農薬栽培でも病虫害被害がほとんど見られない(図1)。
  • 化学変異原となる薬剤を処理した12,000個体のV. stipulaceaの中から、栽培化に関連する形質について選抜した変異体のうち、3系統は発芽しやすい性質を、1系統は莢が割れない性質を有する(図2)。
  • 発芽しやすい3系統は変異によって種皮の異なる部位が水を通しやすくなっており、莢が割れない1系統は変異によって莢の割れ目が形成されなくなっている。
  • 発芽しやすい変異体のうち1系統については、セルロース合成遺伝子CesA7が欠損したことによると推定される。

成果の活用面・留意点

  • 見いだされた栽培化に関わる変異を蓄積することで、無農薬・低農薬で栽培できる新作物を開発できる可能性がある。
  • 野生植物への栽培化変異の付与は、突然変異体の選抜という古典的な手法で達成できるため、途上国でも容易に実施可能である。
  • 本法の副産物として、既存の作物には見られない新規栽培化関連遺伝子を同定できる。
  • 味・成分などの品質は未確認である。
  • V. stipulacea(JP245503)の種子は、農業生物資源ジーンバンクから入手可能である。
  • V. stipulacea(JP245503)のゲノム情報は、Vigna Genome Serverから入手可能である。

具体的データ

図1.つくば市の畑で無農薬栽培したときの様子,図2.もとの植物(野生型)と選抜した変異体

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(科研費)
  • 研究期間:2011~2019年度
  • 研究担当者:
    高橋有、武藤千秋、友岡憲彦、内藤健、坂井寛章、吉津祐貴(岩手県農業研究センター)、穴井豊昭(佐賀大学)、Muthaiyan Pandiyan(タミルナドゥ農業大学)、Natesan Senthil(タミルナドゥ農業大学)
  • 発表論文等:Takahashi et al(2019)Front Plant Sci. 10:1607,doi:10.3389/fpls.2019.01607