比較ゲノム解析等に基づいて選定したキウイフルーツかいよう病菌の推奨菌株

要約

キウイフルーツかいよう病菌は、比較ゲノム解析等の成果に基づいて5つの系統に整理できる。この新分類体系に基づいて、農業生物資源ジーンバンクの所蔵菌の中から、典型的な特性を有するものを推奨菌株として選定し、関連情報とともに公開する。

  • キーワード:農業生物資源ジーンバンク、キウイフルーツかいよう病菌、ゲノム、推奨菌株、モノグラフ
  • 担当:遺伝資源センター・微生物分類評価チーム
  • 代表連絡先:電話 029-838-7051
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

キウイフルーツかいよう病菌(Pseudomonas syringae pv. actinidiae)は各地で深刻な被害をもたらしていることから、指定有害植物に指定され、輸入検疫・国内検疫措置の対象にもなっている。本菌は3つのbiovar(生理型;変種レベルの分類階級)、すなわちbiovar 1~3に分類されている。しかし、biovar間の特性の違いが十分に解明されておらず、分類の根拠が脆弱であること、既存のbiovarに当てはまらない未分類株が見出されること、信頼できる対照菌株が国内では入手困難なことが、診断・検出や同定を目指した技術開発を行う上での障害となっている。
そこで、本研究では、比較ゲノム解析をはじめとする各種解析手法を用いて本菌の特性評価を行い、biovarレベルの分類体系を整備した上で、農業生物資源ジーンバンクの所蔵菌の中から典型的な特性を有するものを推奨菌株として選定・公開する。

成果の内容・特徴

  • ゲノム配列を用いた系統解析や各種表現型・遺伝型の比較試験に基づいて、各biovarの定義・境界を明確にした上で、新たに発見した2つの日本産系統を「biovar 5」および「biovar 6」と命名する(図1)。これにより、本菌は5つのbiovar(biovar 1, 2, 3, 5, 6)に再分類される。
  • biovar 1と3は、毒素産生遺伝子の存否、毒素産生能力の有無、外来性の可動性遺伝因子の存否に基づいて、さらに複数のグループへと細分できる(図2)。
  • 本研究により、わが国にはbiovar 2以外の4つのbiovarが存在することと、それらの表現型・遺伝型、分布域や多様性の実態が明らかになり、本菌に関わるモノグラフが完成する。
  • ジーンバンクには、わが国に分布しているすべてのbiovar・グループが完備している。各biovarやグループから典型的な菌株を推奨菌株として選定し、モノグラフ等の関連情報とともにジーンバンクのサイトで公開する(https://www.gene.affrc.go.jp/?mcap_ps)(図2)。

成果の活用面・留意点

  • 合理的な分類体系を整備し、モノグラフを完成させたことにより、分類の脆弱さや未分類株に起因する研究・行政施策上の混乱が解消される。
  • 推奨菌株やその関連情報を利用することにより、診断や同定・検出技術を開発することが可能となる。それらの技術や公開された菌株・情報は、基礎・応用研究、農業生産、発生予察や植物検疫の現場で活用でき、防除対策を推進する原動力となる。

具体的データ

図1 ゲノム配列の相同性に基づくキウイフルーツかいよう病菌とその近縁細菌の系統樹,図2 キウイフルーツかいよう病菌の推奨菌株

その他