ネギ属遺伝資源の超低温保存技術

要約

種子で保存できないネギ属遺伝資源の超低温保存技術である。熱伝導率の高いアルミニウムで作成したプレートをデバイスとして利用し、ニンニク茎頂をアルギン酸ゲルで固着してから、ガラス化液で脱水を行い液体窒素に浸漬することで、ネギ属遺伝資源の超低温保存ができる。

  • キーワード:ネギ属(Allium)遺伝資源、ニンニク、V cryo-plate法、超低温保存
  • 担当:遺伝資源センター・保存技術・情報チーム
  • 代表連絡先:電話 029-838-7051
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

ネギ属作物は、ニンニク、ワケギ、ラッキョウなどを含む単子葉植物で、種子が得られる品種・系統が少なく、自然分球による栄養繁殖で増殖されている。このため、品種・系統の維持は畑に植えて栽培する圃場保存を毎年繰り返しているが、保存点数が制約されること、保存労力や経費がかかること、病害虫やウイルス病の伝染の危険性があること、自然災害で消滅する危険性あることなど、多くの問題があり、並行して茎頂培養による原品種の保存や増殖を行うことが必要である。しかし、継代培養には定期的に多量の植物を植え継ぐ労力が求められる。そこで、本研究では収穫した鱗茎から無菌的にウイルスフリー茎頂を摘出し超低温保存技術の開発を行う。近年、世界的にニンニクの超低温保存技術開発が行われているが、一つの方法で多様な系統維持に汎用性がある技術開発はされていない(表1)。そこで、アルミニウムプレートに茎頂を固着しガラス化液で脱水・液体窒素浸漬するV cryo-plate法を用いて最適処理条件を明らかにし、超低温保存事業を効率化する。

成果の内容・特徴

  • 熱伝導率の高いアルミニウムで作成したプレートをデバイスとして利用し、ニンニクの茎頂をアルギン酸ゲルで固着してから、ガラス化液で脱水を行い液体窒素に浸漬する方法である(図1)。冷却時間が1~2秒と従来法のガラス化法より20~30倍短く、超低温に冷却(ガラス化)できる(表1)。また、融解は茎頂の付いたプレートを液体窒素から取り出し、ショ糖液に浸漬して急速に昇温させる(2~3秒)。保存後、ニンニク茎頂は正常に生育する(図1)。
  • ニンニクのV cryo-plate法による超低温保存は、従来のガラス化法のように処理液の交換が煩雑でなく操作を簡便にできる利点があり、たくさんの鱗片から茎頂を無菌化し超低温保存する作業を一人で行うことができる(表1)。
  • 高い生存率が得られるガラス化液処理時間の幅が従来のガラス化法に比べて広く、安定した保存ができ、保存後の生存率(100%)が高い(図2)。
  • 4種17系統のネギ属遺伝資源をV cryo-plate法により超低温保存すると、90~100%(平均97%)と極めて高い生存率が得られる(表2)。

成果の活用面・留意点

  • 農業生物資源ジーンバンク事業では現在、多くのネギ属作物の遺伝資源を圃場保存している。本研究によりネギ属遺伝資源のクライオバンキング事業の効率化が可能となることから、極めて有効な保存手法として利用できる。

具体的データ

表1 ニンニク茎頂を用いた各超低温保存法の特徴,図1 ニンニク茎頂の超低温保存法,図2  V cryo-plate 法におけるニンニク茎頂のガラス化液処理時間と超低温保存後の生存率,表2 ネギ属遺伝資源におけるV cryo-plate法による超低温保存後の生存率

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2017~2019年度
  • 研究担当者:田中大介、山本伸一、新野孝男(筑波大)、松本敏一(島根大)
  • 発表論文等:
    • 田中ら(2020)園芸学雑誌、19(2):189-195
    • Tanaka D. et al. (2018) Acta Hortic. 1234:287-29146