風乾処理によるネギ属遺伝資源の-80°C長期保存技術

要約

ネギ属遺伝資源を長期間安定的に保存できる技術である。ネギ属茎頂に処理液で脱水耐性を付与した後、風乾で脱水し-80°C冷凍庫で急速冷却すると、一年間保存後の再生率は液体窒素を用いた超低温保存品と大差なく、安定的に長期保存できる。

  • キーワード:ネギ属(Allium)遺伝資源、ニンニク、脱水、風乾、超低温保存
  • 担当:遺伝資源センター・保存技術・情報チーム
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

ネギ属作物はニンニク、ワケギ、ラッキョウなどを含み、種子が得られる品種・系統が少なく、栄養繁殖で保存されている。圃場栽培での保存では、点数が制約される、労力や経費がかさむ、病害虫による加害や自然災害で消滅する危険性があるなど多くの問題がある。このため、並行して茎頂培養による原品種の保存や増殖を行う必要があるが、定期的に多量の植物を継代する労力も小さくないことから、ネギ属作物の鱗茎から無菌的にウイルスフリー茎頂を摘出し保存する超低温保存技術開発が世界的に行われている。現在の技術では、対象作物に合わせた手法の最適化や超低温保存用の液体窒素タンクなどの施設が必要である。一方で、ネギ属茎頂はガラス状態であれば安定的に保存が可能であり、脱ガラス化に伴う細胞内凍結による致死的な障害を受けにくい手法であれば液体窒素のような極低温でない環境でも保存が可能と考えられる。そこで本研究では、-80°Cの冷凍庫を用いてネギ属遺伝資源を長期保存可能な手法を開発する。

成果の内容・特徴

  • ネギ属の茎頂(約2 mmサイズ)を脱水耐性付与処理液に30分浸けた後、クリーンベンチ内で風乾(空気乾燥)処理し、クライオチューブ(2 ml容)に入れて-80°C冷凍庫に移すシンプルな作業で長期保存できる(図1)。
  • ニンニク茎頂の場合、風乾処理120分後のガラス転移温度は-39.4°Cであり(表1)、-80°C冷凍庫においてガラス状態で安定的に保存できる。
  • ニンニク茎頂においては14日間保存後の再生率は93-100%と高く(図2)、1年間-80°Cで保存しても再生率は変わらない(表2)。また3種7系統のネギ属遺伝資源についても、本手法により平均95%と極めて高い再生率を示す(表3)。

成果の活用面・留意点

  • 農業生物資源ジーンバンク事業等で保存する多数のネギ属遺伝資源に本技術を活用することによって、圃場保存に係る業務量を大幅に削減でき、消滅のリスクも軽減できる。
  • 超低温保存のために液体窒素を必要としないことから、様々なネギ属遺伝資源を保存したい民間業者や大学等の研究機関に容易に技術導入することが可能である。

具体的データ

図1 ニンニク茎頂の-80°C保存法,表1 -80°Cおよび液体窒素(-196°C)で保存したニンニク茎頂の再生率,図2 ニンニク茎頂の風乾処理時間と-80°C保存後の再生率,表2 ニンニク茎頂の-80°C保存期間の影響,表3 ネギ属を用いた-80°Cおよび-196°C(液体窒素)で保存したサンプルの再生率

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2018~2020年度
  • 研究担当者:田中大介、山本伸一、新野孝男(筑波大)、松本敏一(島根大)
  • 発表論文等:
    Tanaka D. et al.(2021)Plant Cell, Tissue and Organ Culture. 144:115-122
    doi:10.1007/s11240-020-01956-6