有機物の投入による土壌からのCO2削減効果を「見える化」するwebツール

要約

webツール「土壌のCO2吸収「見える化」 サイト」は有機物の投入による土壌への炭素貯留効果を計算できる。国内の農地どこでも計算可能であり、「環境保全型農業直接支払制度」のうち堆肥や緑肥の投入による地球温暖化防止効果の試算などに活用できる。

  • キーワード: 環境保全型農業、温暖化緩和、温室効果ガス、土壌炭素貯留、環境直接支払い
  • 担当: 農業環境変動研究センター・気候変動対応研究領域・土壌炭素窒素モデリングユニット
  • 代表連絡先: niaes_manual@ml.affrc.go.jp
  • 分類: 普及成果情報

背景・ねらい

農林水産省は、環境に配慮した生産を後押しするために「環境保全型農業直接支払制度」を実施している。環境保全型農業の効果のひとつとして期待されているのが、土壌の炭素貯留による温暖化緩和効果である。農法の工夫により土壌中の炭素量が増えれば、大気へのCO2の排出を削減したことになるが、農法と効果との関係は複雑で、効果は場所により異なるうえ、圃場で実測するのは多くの時間と労力を要する。
そこで農法と土壌炭素量との関係をモデル化する研究成果を利用して、web上で簡単な操作で土壌の炭素貯留効果を計算できるツール「土壌のCO2吸収「見える化」サイト」を開発し、農林水産省による上記制度の効果の評価などに資する。

成果の内容・特徴

  • 「土壌のCO2吸収「見える化」 サイト」(図1)は、土壌炭素貯留効果に加えて、農業生産から排出される重要な温室効果ガスであるメタンと一酸化二窒素、さらに化石燃料消費からのCO2排出もあわせた温室効果ガスの総合評価webツールである。
  • 操作は簡単で、地図上で場所を選択し(図2)、作物と有機物管理法をメニューから選択する(図3)だけで土壌炭素量の変化を20年間計算し、結果のグラフおよび、1年あたりの土壌炭素変化量、標準的な管理の場合に比べた追加的なCO2削減量、それが乗用車何台分に相当するかなどの数字(図4)が表示される。該当する圃場で実際に土壌やガスを採取して分析するのに比べると、大幅に時間と労力を削減できる。
  • 農林水産省は、2016年度に「環境保全型農業直接支払制度」による温暖化防止効果の「試行調査」として、全国から堆肥を投入した40地区、緑肥を投入した37地区を選び、このツールを用いて、場所と営農管理の情報を入力することで土壌炭素貯留量及び温室効果ガスの排出量を計算した。この際、堆肥や緑肥を投入した場合と投入しなかった場合の計算を両方行い、両者の結果の差を堆肥や緑肥の投入効果として評価した。その結果、1haあたりのCO2の削減量は堆肥区が2.2 t/年、緑肥区が2.7 t/年と計算された。これに2015年度の制度の取り組み面積(堆肥17,000 ha、緑肥13,000 ha)を掛け合わせ、合計72,000 tCO2/年(自動車31,000台分)の削減効果という試算結果を得ている。
  • 農林水産省は、2017年度にも引き続きこのツールを利用して政策の効果の検証を本格的に行う予定である。

普及のための参考情報

  • 普及対象: 全国の農業者、普及組織、行政機関、民間企業
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等: 日本全国の農地に適用可能。
  • その他: このツールは、全国のどの農地にでも適用できる。行政による政策評価の他にも、農業者自身がサイトを利用して、自らの生産物の付加価値をつける、カーボンオフセット認証や企業のCSR活動表示等に利用、などの活用法も想定される。

具体的データ

図1 サイトのトップページ
「計算」タブをクリックして計算開始
; 図2 場所の選択ページ 地図上で場所を選択すると、気象と土壌タイプのデータが自動的に取得される; 図3 作物の選択ページ 土壌に投入される作物残渣の量が自動的に計算される。緑肥投入の場合はここで作物残渣の量に緑肥の分をプラスする。このあと、堆肥と肥料の投入量設定ページに進み、計算へと進む。; 図4 計算結果の表示ページ 赤と青の線の差が、標準的な管理と環境保全型農業の差。下の表には、1年あたりの土壌炭素変化量、標準的な管理の場合に比べた追加的なCO<sub>2</sub>削減量、それが乗用車何台分に相当するかなどが表示される。

その他

  • 予算区分: 交付金
  • 研究期間: 2013~2016年度
  • 研究担当者: 白戸康人、大澤剛士、高田裕介
  • 発表論文等:
    1) 農研機構(2013)「土壌のCO2吸収『見える化』サイト」(2013年10月2日)
    2) 白戸(2015)ニューカントリー、738:42-43