水田水温を利用した発育モデルによる水稲出穂予測の精度向上

要約

水稲の出穂期は、水田水温の影響を取り入れることで、気温のみを使用した場合より高精度で予測できる。モデル結合型作物気象データベース(MeteoCropDB)で提供するアメダス各地点の水田水温の推定値を活用することで、出穂予測の精度向上が期待される。

  • キーワード:水稲、気候変動、データベース活用、出穂予測、水田水温
  • 担当:農業環境変動研究センター・気候変動対応研究領域・作物温暖化応答ユニット
  • 代表連絡先:niaes_manual@ml.affrc.go.jp
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

水稲の主要な発育ステージである出穂期の早晩は、温度条件によって大きく変動し、作物暦、生育、収量などに影響するため、気候変動の影響評価では第一に考慮すべき要素である。これまで出穂予測に関わる温度変数としては主に気温が利用されてきたが、成長点が水面下にある生育前半には水温の影響が大きい。そこで本研究では、コシヒカリを対象に、温度変数として水温を取り入れることによって、出穂予測の精度向上を図る。水温と気温の差は、地域によって異なるため、水温導入による精度向上も地域によって異なるものと考えられるが、その程度は明らかではない。そこで、全国の水稲作況調査(758データ)と気象データベースを活用して、水温導入モデルの効果の地域的特徴を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 移植期における水田水温(田面水の温度、以下水温)は気象条件に依存して変化し、必ずしも気温とは一致しない。国内6地点の移植期における水温と気温の差(=水温・気温差)は、亜熱帯の石垣島で小さく、気温の低い旭川で高い傾向にある(月平均で0~3°C程度の地域間差)。ただし、館野では湿度が高く弱風のため、気温は高いが旭川とほぼ同一の水温・気温差となる(図1)。
  • 従来の発育モデル(図2の従来モデル)で、生育前半には気温の代わりに水温を変数とすることで、水温の影響を導入する(図2の新モデル)。発育指数DVIは水稲の発育の進行を表す指数で、ここでは出穂日を1とする。水温は、移植直後は水稲の植被の影響が小さいことを考慮し、裸地を想定した日平均値TW0を使用する。TW0は気温や日射量などの気象データから理論的に推定することが可能である。
  • 水稲奨励品種決定基本調査データベースとMeteoCropDBで提供される最寄りのアメダス地点における気温、水温から、新モデルの発育パラメータを推定するとともに、水温から気温への切り替えの時期を検討したところ、発育指数DVISW = 0.4~0.5で誤差が最小となる。
  • 新モデルと従来モデルの予測精度を、全国の758の作況調査結果で検証したところ、緯度帯、標高にかかわらず、新モデルは従来モデルに比べて推定誤差は23~41%減少し、予測精度は1~2.4日向上する(図3)。

成果の活用面・留意点

  • 本研究の手法を他の品種に対して応用する場合は、モデルの発育パラメータを決めなおす必要がある。パラメータの決定方法については、発表論文に記載されている。
  • MeteoCropDBで提供する、アメダス各地点の気温と水温の推定値を活用することで、全国各地における水稲出穂期の高精度な予測が可能となる。
  • 本成果を活用することで、気候変化がイネの発育ステージに及ぼす影響予測や、適応技術としての作期移動の有効性評価の信頼性が高まる。

具体的データ

図1 全国6地点の水稲移植期における気温と水温・気温差との関係?図2 水温の影響を取り入れた発育モデルの構造?図3 出穂日予測の推定誤差

その他

  • 予算区分:交付金、委託プロ(温暖化適応・異常気象対応)、競争的資金(環境研究総合)
  • 研究期間:2010~2016年度
  • 研究担当者:桑形恒男、長谷川利拡、石郷岡康史、福井眞(早稲田大人間科学)、近藤始彦(名古屋大農)
  • 発表論文等:
    1)Fukui et al. (2017) J. Agric. Meteorol. 73(3):84-91
    2)Fukui et al. (2015) J. Agric. Meteorol. 71(2):77-89