過去30年間に穀物収量が不安定化した地域と気候変化の寄与を検出

要約

過去30年間に世界の収穫面積のうち、コムギ22%、コメ16%、トウモロコシ13%、ダイズ9%の地域でそれぞれ収量が不安定化している。収量の不安定化要因のうち気候変化が約3割を占め、高温日数の増加が相対的に大きく寄与している。

  • キーワード:気候変動、収量変動、コムギ、コメ、トウモロコシ、ダイズ
  • 担当:農業環境変動研究センター・気候変動対応研究領域・影響予測ユニット
  • 代表連絡先:niaes_manual@ml.affrc.go.jp
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

収量の不安定化は穀物価格を高騰させ、穀物輸入国の経済的損失や開発途上地域の貧困層の栄養状態の悪化をもたらす。将来の穀物生産の安定化に役立つ技術を開発するためには将来予測に加えて、実態解明が重要である。世界的に見ると、平均気温の上昇に加えて、熱波など極端現象の増加がすでに観測されているが、こうした変化が穀物収量の安定性に及ぼす影響はこれまで明らかではない。そこで、過去30年間における世界各地の穀物収量の安定性の変化を調べ、さらに気候変化との関連を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 農業環境変動研究センターでは、1981年から2010年までの30年間の日別気象データと穀物収量データから、世界の穀物収量の安定性の変化と気候変化との関連を明らかにする。ここでの「安定性の変化」は収量の年々変動幅の長期変化を指す(図1)。
  • コムギでは収量が不安定化した面積は安定化した面積とほぼ同じで、不安定化した地域は世界の収穫面積の22%、安定化した地域は21%である(図2)。他の穀物では、収量が安定化した地域より面積は小さいものの、過去30年間に世界の収穫面積のうちコメ16%、トウモロコシ13%、ダイズ9%の地域で収量が不安定化している(図2)。
  • 収量が不安定化した地域は、トウモロコシ・ダイズではアルゼンチン、コムギではオーストラリア、フランス、ウクライナなどの主要輸出国が含まれる。
  • 中国東北部のトウモロコシ・ダイズ、インドネシアや中国南部のコメなど近年、輸入量が増大し、世界の穀物需給への影響を増している国でも収量の不安定化が見られる。このほか、ケニアやタンザニアのトウモロコシ、バングラディシュやミャンマーのコメなど栄養不足の問題を抱える国で収量が不安定化している。
  • 日別気象データを用いた解析から、収量の安定性の変化をもたらした要因のうち、気候変化が約3割であり、この中では乾燥日数や低温日数の変化に比べて、高温日数の増加の寄与が相対的に大きいことが示されている。

成果の活用面・留意点

  • 気候の年々変動は収量の年々変動の主な要因となっている。人為的要因による長期的な気候変化により、気候の年々変動の振幅が増大し、ひいては収量変動の振幅が増大する。本研究成果情報ではこの点に焦点を当てている。
  • 穀物収量の安定性の変化には気候変化が寄与しているが、技術発展や政治・経済情勢の変化といった気候変化以外の要因の寄与はさらに大きい(約7割)。
  • 穀物輸入国の経済的損失や開発途上国の貧困層の栄養状態の悪化を回避するためには、高温耐性品種の開発・導入、播種日の見直し、灌漑の導入といった適応策の導入により収量の安定化を図ることが重要である。本成果は、こうした適応策が優先的に必要となる地域・穀物を特定するうえで有用である。
  • 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第5次報告書によると、地上気温は21世紀にわたって引き続き上昇し、極端な高温もより頻繁になると予測されている。技術開発により、世界の多くの地域・穀物では収量が安定化しているが、収量がすでに不安定化している地域・穀物については推移を継続的に監視していく必要がある。

具体的データ

図1 穀物収量の安定化・不安定化の定義?図2 1981~2010年における穀物収量の安定性の変化

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(環境研究総合)
  • 研究期間:2012~2016年度
  • 研究担当者:飯泉仁之直
  • 発表論文等:Iizumi, T. and Ramankutty, N. (2016) Environ. Res. Lett. 11:034003.
    doi:10.1088/1748-9326/11/3/034003