土着の根粒菌を用いたダイズ畑でのN2O発生の削減

要約

温室効果ガスである一酸化二窒素(N2O)を窒素ガス(N2)に還元する能力を持った土着ダイズ根粒菌を日本各地の農地土壌より分離し、混合接種することにより、収穫期のダイズ畑からのN2O 発生を30%削減できる。

  • キーワード:温室効果ガス、一酸化二窒素、ダイズ、根粒菌、根粒
  • 担当:農業環境変動研究センター・気候変動対応研究領域・温室効果ガス削減ユニット
  • 代表連絡先:niaes_manual@ml.affrc.go.jp
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

一酸化二窒素(N2O)は、二酸化炭素の約300倍の温室効果をもつ強力な温室効果ガスであり、またオゾン層の破壊の原因物質でもある。世界のN2Oの最大の人為的発生源は農業であり、約60%を占めている。農耕地から発生するN2Oを削減技術の開発は急務である。
ダイズ収穫期には老化根粒の崩壊過程においてN2Oが発生する。根粒菌には N2O をN2に還元するN2O 還元酵素を持つ株(nosZ+)と持たない株(nosZ-)があり、N2O 還元酵素を持つ株を接種することによりN2Oの発生量を削減できると考えられる(図1)。これまでに、進化加速法により開発したN2O 還元酵素活性を強化したダイズ根粒菌の接種により、ダイズ畑からの収穫期のN2O 発生量を半減できることを実証している(農業環境技術研究所主要成果29集)。しかし、N2O 還元酵素強化株の環境影響が不明であること、および開発コストが高いという問題がある。そこで、N2O還元酵素を持つ土着ダイズ根粒菌を利用したダイズ畑でのN2O削減技術の開発を行う。

成果の内容・特徴

  • 日本各地の32ヶ所の農耕地に生息している土着の根粒菌125株から分離したN2O 還元酵素を持つ根粒菌(USDA110系統、nosZ+)は63株である。
  • 2年間の野外栽培試験の結果、63株のnosZ+根粒菌混合株をダイズに接種することにより、収穫期のダイズ畑におけるN2O発生量が約30%削減できる(図2)。
  • 根粒菌混合株接種区において、N2O還元酵素を持つ(nosZ+)根粒の割合は71~89%である(図3)。
  • 収穫2週間前の土壌、根、根粒からのN2O発生量を調べた結果、収穫期の主なN2O発生源は根粒であった(図4)。また根粒からのN2O発生量は根粒菌混合株接種区のほうが非接種区よりも有意に低い。

成果の活用面・留意点

  • 混合株の利用により、土壌や気象条件が異なる日本の農耕地において、より多様な環境に適応できる可能性がある。

具体的データ

図1 N2O還元酵素を持たない根粒菌と持つ根粒菌?図2 収穫期のN2O発生?図3 全根粒に対するN2O還元酵素を持つ(nosZ+)根粒の割合?図4 収穫2週間前に圃場からサンプリングした土壌、根、根 粒からのN2O発生量

その他

  • 予算区分:交付金、その他外部資金(新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業)
  • 研究期間:2007~2016年度
  • 研究担当者:秋山博子、星野(高田)裕子、板倉学(東北大、現:京都産業大)、下村有美(現:協同乳業)、王勇、山本昭範(現:東京学芸大)、多胡香奈子、中島泰弘、南澤究(東北大)、早津雅仁
  • 発表論文等:Akiyama et al.(2016)Sci. Rep., 6: doi: 10.1038/srep32869