農地からの温室効果ガス排出観測に関する初の国際的なデータベースの構築

要約

農地からの温室効果ガス緩和のため、国際的な温室効果ガスネットワーク(MAGGnet)により、世界で行われてきた温室効果ガス排出や土壌炭素貯留の現場観測に関するデータベースが初めて作成され、データの利用や登録が可能な形で公開されている。

  • キーワード:気候変動緩和、温室効果ガス、土壌炭素貯留、国際ネットワーク、GRA
  • 担当:農業環境変動研究センター・気候変動対応研究領域・土壌炭素窒素モデリングユニット
  • 代表連絡先: niaes_manual@ml.affrc.go.jp
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

農業分野の温室効果ガスに関するグローバル・リサーチ・アライアンス(GRA: Global Research Alliance on Agricultural Greenhouse Gases)は、2009年12月にコペンハーゲンで開催された第15回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP15)の際、世界各国の合意により設立された、農業分野の温室効果ガスに関する研究ネットワークである。農研機構農業環境変動研究センター研究者が主要メンバーとなっている農地(cropland)研究グループは、2012年に農業分野の温室効果ガスの排出削減のための研究を目的とするネットワークであるMAGGnet (Managing Agricultural Greenhouse Gases Network?) を立ち上げ、46のGRA加盟国の協力のもと、データベースの構築を行っている。日本からのデータも含めたデータベースを公開し、温室効果ガス排出削減研究の推進に資する。

成果の内容・特徴

  • MAGGnetには、2015年12月現在、世界の20か国から合計315の温室効果ガス現場観測試験に関するメタデータ(収録データの概要)が登録されている(図1)。地理的には、欧米からの登録が多く、最多はフランスの104で、続いて英国36、米国30の順であり、日本からは9サイト(つくば6点、芽室3点)が登録されている。2016年に日本からさらに10サイト(山形、福島、新潟、茨城、愛知、滋賀、徳島、長崎、熊本、鹿児島)を追加する(地点を図1右下に示す)。
  • 収録されているデータの項目は表1に示したとおりである。315のうち233は終了した試験(サイト)、82は継続中の試験であり、測定期間は、1~3年と短いものが214件、3~10年のものが54件、10年以上のサイトは47件である。
  • 土壌炭素量と一酸化二窒素(N2O)排出量は、80%以上のサイトで測定されている。作物関係のデータでは、収量は56%のサイトで測定されているが、茎葉や根のバイオマスデータはそれぞれ35%、9%しか測定されていない。
  • 対象としている作付け体系や営農管理法などの温暖化緩和技術の種類は表2のとおりである。

成果の活用面・留意点

  • 現時点ではメタデータのみであるが、今後は観測データが格納される予定である。
  • 営農管理による温室効果ガスの排出削減効果について世界中のデータを利用することで、地域間の比較・解析や、モデルの検証・改良・開発などの研究が加速される。
  • 現時点では、アジアからの登録が少ない。水稲稲作が中心で、欧米とは気候、土壌、作物、営農管理法などが大きく異なるアジアからのデータの発信も重要である。今後、日本の研究者が公表済みのデータを登録することにより、日本の取り組みを世界にアピールするとともに、研究成果が国際研究ネットワークを通じて世界で活用されることにより世界規模の温室効果ガス削減につながることが期待される。
  • データベースの登録や利用はhttp://globalresearchalliance.org/maggnet/を参照。

具体的データ

図1 左上:MAGGnetに登録されているサイトの分布(2015年12月時点)(Liebig et al., 2015)??表1 MAGGnetに収録されているデータ項目と内容?表2 MAGGnetに登録されている温暖化緩和技術の種類とそれに関する試験数(2015年12月時点)

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2015~2016年度
  • 研究担当者:岸本(莫)文紅、白戸康人、須藤重人、ほか海外から44名(GRA農地グループ)
  • 発表論文等:
    1) Liebig M.A. et al.(2016)Carbon Management, 7: 243-248
    doi: 10.1080/17583004.2016.1180586
    2)岸本ら(2015) 土肥誌, 86(1):71-72