公開情報のみで実施する外来生物の農業被害リスクマップ作成

要約

無償で利用できる公開地図情報、農業統計情報とシミュレーションを組み合わせ、未侵入や侵入初期の分布情報等が限られた状況における、外来生物等による農業被害リスクを推定する手法を開発した。防除実施地区の優先順位付け等、計画立案に貢献できる。

  • キーワード:農林業センサス、無償地図データ、プロセスモデル、分布拡大予測
  • 担当:農業環境変動研究センター・環境情報基盤研究領域・総合評価ユニット
  • 代表連絡先: niaes_manual@ml.affrc.go.jp
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

外来生物による農業被害は深刻となるが、事前に侵入を防ぐべき場所等を事前に明らかにできれば、そこに防除努力を集中する等、効果的な対策が実現できる。本成果は、各種の公開地図情報と統計情報を収集・再整備し、数値シミュレーションモデルを組み合わせることで、未侵入、あるいは侵入のごく初期という対象種の分布情報が限られた状況において農業被害リスクが推定できる手法を開発する。

成果の内容・特徴

  • 利用するシミュレーションモデルは、当センターで開発したセル・オートマトンの一種で、対象地域を格子状のセルに区切り、対象生物は河川流水に従って標高が高い場所から低い場所へセル間を移動し、分布を拡大するというものである(図1左上)。
  • シミュレーションに必要な情報は河川、標高、約5km四方の格子状メッシュという3種の地図情報だが、それぞれ国土交通省の国土数値情報国土地理院の基盤地図情報環境省の生物多様性センターからインターネットを介して無償で入手できる(図1右上)。これらを収集し、シミュレーション用データとして再整備を行う。
  • 実際の分布データが入手できる場合は、シミュレーション結果の検証に用いる。事例として宮城県における特定外来生物アレチウリに適用すると、実際の分布をうまく説明できていることが確認できる(図1左下)。
  • 農業被害の対象となる作柄の面積は、地図と同じくインターネットを介して無償で入手できる農林業センサスを、当センターが開発した技術によってメッシュ地図化したものを利用する(図1右下)。
  • シミュレーションの結果を侵入確率、起こった時の被害をアレチウリによって著しく収量が低下する作柄の面積と設定し、それぞれを掛け合わせることでリスク値とする。リスク値を地図として視覚化したものを図2に示す。赤色が濃い場所が、本成果における農業被害リスク値が高い場所を意味する。
  • 本研究で利用した分布情報以外の全てのデータはインターネットを介して無償で入手できるものであり、今回対象とした宮城県だけでなく、他の都道府県においてもすぐに適用することが可能である。今後は、様々な地域における様々な生物への適用可能性を検討していく予定である。

成果の活用面・留意点

  • これまで広域管理が難しかった流域スケールで分布拡大する外来生物に対して、モニタリングや防除など優先すべき地域を特定できるため、都道府県等、広域スケールにおける管理に向けた計画の検討等に貢献できる。
  • アレチウリは事例であり、同様に流水によって分布拡大を行う様々な生物による農業
    リスク推定に活用できる。
  • シミュレーション結果の検証に用いる分布データは、網羅的なものである必要はない。

具体的データ

図1:成果全体のフレームワーク?図2:事例として作成したアレチウリのリスクマップ

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2016年度
  • 研究担当者:大澤剛士、黒川俊二、大川茂範(宮城県古川農試)、安藤慎一朗(宮城県古川農試)
  • 発表論文等:Osawa T. et al.(2016)AMBIO 45(8): 895-903