土壌くん蒸効果を向上させ現場ニーズに応えるガスバリアー性フィルム

要約

土壌くん蒸消毒時用いられる作物栽培用の農ポリと同等の性状で、かつ生産現場のニーズに応じたガスバリアー機能を付与した新規フィルムを用いることで、土壌くん蒸効果の安定と農薬登録範囲内での薬剤の処理量の削減が可能となる。

  • キーワード:土壌くん蒸消毒、ガスバリアー性フィルム、ガスバリアー性能評価法、土壌病害対策、薬剤処理量削減
  • 担当:農業環境変動研究センター・有害化学物質研究領域・有機化学物質ユニット
  • 代表連絡先: niaes_manual@ml.affrc.go.jp
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

土壌くん蒸消毒は、連作障害を回避するための重要な手段である。土壌くん蒸消毒時には農業用ポリエチレンフィルム(農ポリ)等を用いて土壌表面を被覆する。土壌くん蒸の効果を高め、かつ土壌くん蒸剤の大気中への漏洩による周辺環境への負荷を低減させるために、ガスバリアー性能の高い資材の普及が望まれている。これまでにもガスバリアー性フィルムは開発、上市されてはいたが、幅、厚さ、強度等の面で、必ずしも現場ニーズに合致したものではないため殆ど普及はしていない。そこで、各土壌くん蒸消毒場面で用いられる慣行フィルムと同等の性状(幅、厚さ、長さ、色、強度等)で気密性が高くなるガスバリアー機能を付与した新規フィルムを産地のニーズに応じて用いることで、土壌くん蒸消毒効果の安定と農薬登録の範囲内での薬剤処理量の削減、さらに周辺環境への負荷軽減を目指す。

成果の内容・特徴

  • 新規開発した精密天秤を用いたカップ法で評価した市販フィルムのガスバリアー性能等を参考に、加工の可否や価格等の現場ニーズに応じたフィルムを選択する(表1)。
  • 千葉県のスイカ栽培露地ほ場では、夏季にクロルピクリン2ml(1穴当たり)処理した後にガスバリアー性フィルムで被覆すると、慣行のポリフィルムを用いたクロルピクリン3ml(1穴当たり)処理時の土壌気相中と同等もしくはより高いガス濃度が保持される(図1)。
  • ガスバリアー性フィルムを用いることで、土壌くん蒸剤の土壌中での分解消失割合が大きくなり、周辺環境への負荷を小さくすることができる(データ略)。
  • 徳島県におけるサツマイモ立枯病激発ほ場での事例では、慣行フィルムで10a当たり1,400kgの収量だったが、ガスバリアー性フィルムを用いた場合には2,466kgに増収し、病害発生率は80.9%から1.4%に低減、秀品率は10.6%から74.6%に増加した。10a当たりの概算収入は、420,000円から739,800円の増収となる(データ略)。

成果の活用面・留意点

  • 土壌くん蒸剤処理用のガスバリアー性フィルムを選ぶ際には表1を参考にする。
  • ガスバリアー性フィルムを用いると土壌気相中のガス濃度が高く維持されるので、くん蒸処理後のフィルム?離時にはガスマスクの装着等の安全に配慮する。

具体的データ

表1 現場ニーズをもとに開発・上市されたガスバリアー性フィルム一覧?図1 クロルピクリンの使用量削減効果:フィルム下気相中クロルピクリン濃度の推移

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(環境研究総合)
  • 研究期間:2013~2016年度
  • 研究担当者:小原裕三、門馬法明(公財 園芸植物育種研)、山本幸洋(千葉農林総セ)、原田浩司(千葉農林総セ)、横山とも子(千葉農林総セ)、武田藍(千葉農林総セ)、國友映理子(千葉農林総セ)、田中昭人(徳島農水総技セ)、大黒香奈美(徳島農水総技セ)、米本謙悟(徳島農水総技セ)、村井恒治(徳島農水総技セ)、三宅圭(徳島農水総技セ)、市原勝(高知農技セ)、野村誠(高知農技セ)、清遠亜沙子(高知農技セ)、佐藤敦彦(高知農技セ)、安岡由紀(高知農技セ)、小泉正明(数理計画)、塩見崇史(数理計画)、吉田文彦(数理計画)、藤原禅(数理計画)、尾形和彦(数理計画)
  • 発表論文等:
    1) Kobara Y. et al.(2012) J. Pestic. Sci. 37(1):28-36
    2) 野村ら(2016)高知県農業技術センター研究報告、25:5-10