鉄資材と湛水管理による水稲玄米中のヒ素とカドミウム濃度の同時低減技術

要約

カドミウムの吸収を抑制する出穂前後3週間の湛水管理とヒ素の吸収を抑制する鉄資材の併用により、水稲玄米中のカドミウム濃度を大幅に低減させつつ、玄米中無機ヒ素の濃度を26~46%減らせる。

  • キーワード:ヒ素、カドミウム、鉄資材、湛水管理、水稲
  • 担当:農業環境変動研究センター・有害化学物質研究領域・無機化学物質ユニット
  • 代表連絡先:niaes_manual@ml.affrc.go.jp
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

土壌には微量のヒ素やカドミウムが含まれ、水稲は生育過程でこれらを吸収し、一部を玄米に蓄積する。無機ヒ素には発がん性、カドミウムには腎毒性が指摘され、アジアにおける主食である水稲の吸収を抑制する必要があり、コーデックス委員会ではそれぞれ0.35mg/kg(玄米)および0.4mg/kg(精米)の基準値が設定されている。水田土壌中のカドミウムは落水による酸化的条件下で可溶化し、湛水の継続に伴う還元的条件下で不溶化するのに対し、ヒ素は還元的条件下で可溶化し、酸化的条件下では不溶化しやすい。すなわち、ヒ素とカドミウムの吸収はトレードオフの関係にある。本研究では、水稲において湛水管理でカドミウムの吸収を抑えつつ、鉄資材でヒ素の吸収を抑制する両元素の同時低減技術を開発する。

成果の内容・特徴

  • 本成果は、土壌特性および土壌ヒ素濃度の異なる6つの試験地(A~F)で、市販の製鋼スラグ(20t/ha)、低結晶性水酸化鉄(水酸化鉄)(10t/ha)およびゼロ価鉄(10t/ha)を施用し、各地域で普及している水稲品種を栽培した結果である。カドミウム吸収抑制に効果的な出穂前後3週間の湛水管理を行い、その他の期間は地域の慣行に準じる。
  • 鉄資材の施用により玄米中無機ヒ素濃度は多くの試験地で有意に低下し、その低減率の平均は製鋼スラグ26%、水酸化鉄31%、ゼロ価鉄46%である(地点Fを除く)。玄米中カドミウム濃度も湛水管理により、いずれの条件でも抑制される(図1)。
  • 土壌溶液のヒ素濃度は、製鋼スラグ、水酸化鉄、ゼロ価鉄施用の順に低下し、土壌溶液濃度と玄米のヒ素濃度には相関が認められる(図2)。すなわち鉄資材による土壌溶液中ヒ素濃度の低下が水稲によるヒ素吸収抑制の一要因と思われる。
  • 玄米収量、稲わら重および整粒粒比に関して、資材施用に伴う有意な悪影響は認められず、ゼロ価鉄ではむしろ整粒粒比が高まった(表1)。
  • 以上より、水稲栽培において、出穂前後湛水管理と鉄資材を併用することで、収量や品質に悪影響を与えずに、玄米中の無機ヒ素とカドミウムの同時低減が可能となる。

成果の活用面・留意点

  • 出穂前後3週間の湛水管理は「コメ中のカドミウム濃度低減のための実施指針」(農林水産省)で推奨されている。
  • 資材は耕うん直前に圃場に直接施用する。玄米中無機ヒ素の濃度レベルと鉄資材施用による低減率には正の相関があり、玄米中無機ヒ素濃度が0.08mg/kg以下(地点F)では、低減効果はほとんど認められない。
  • ゼロ価鉄資材は玄米ヒ素低減効果が高いものの、高価格のため、同様の特性を持つ安価な代替資材を探索する。
  • 得られた結果は単年度のものであり、単年施用後の持続性や複数年の少量継続施用の効果などを検討する。

具体的データ

図1 資材施用が玄米中無機ヒ素およびカドミウム濃度に及ぼす影響;図2 土壌溶液中ヒ素濃度と玄米中総ヒ素濃度の関係;表1 資材施用が水稲収量および品質におよぼす影響

その他

  • 予算区分:委託プロ(食の安全・動物衛生プロ)
  • 研究期間:2013~2017年度
  • 研究担当者:牧野知之、須田碧海、馬場浩司、中村乾、加藤英孝、山口紀子、赤羽幾子、石川覚、川崎晃、荒尾知人、伊藤正志(秋田農試)、宮崎成生(栃木農試)、武久邦彦(滋賀農技セ)、佐野修司(地独:大阪環農水研)、松本真悟(島根大学)
  • 発表論文等:Makino T. et al.(2016)Nutr. 62(4):340-348