コメの無機ヒ素濃度を抑える遺伝子OsPCS1を発見

要約

コメの無機ヒ素濃度を抑える遺伝子として、ファイトケラチン合成酵素遺伝子OsPCS1を発見した。OsPCS1遺伝子の発現を高めた組換えイネでは、非組換えイネに比べて、コメ(玄米)の無機ヒ素濃度が大幅に低下する。

  • キーワード:無機ヒ素、ファイトケラチン、OsPCS1遺伝子、組換えイネ
  • 担当:農業環境変動研究センター・有害化学物質研究領域・作物リスク低減ユニット
  • 代表連絡先: niaes_manual@ml.affrc.go.jp
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

ヒ素は農耕地土壌を含む環境中に広く分布する元素である。我々は食品や飲料水を通して天然由来の微量なヒ素を摂取しているが、特にコメは毒性の高い無機ヒ素の主要な摂取源である。コメに含まれる無機ヒ素濃度をできる限り減らすために、イネの無機ヒ素集積に関する仕組みを解明することが重要である。
本研究は、水稲品種コシヒカリの変異体集団から選抜した玄米中にヒ素を高濃度に集積する変異体(以下、高ヒ素変異体)を実験材料に、玄米中無機ヒ素濃度に関与する遺伝子を特定するとともにその働きを解明し、玄米中無機ヒ素濃度が低い品種の開発に有益な情報を与える。

成果の内容・特徴

  • 農業環境変動研究センターの試験圃場(灰色低地土、1M塩酸抽出のヒ素濃度:1.4mg/kg)で栽培した高ヒ素変異体は、玄米の無機ヒ素濃度がコシヒカリに比べて約5倍高い(図1a)。一方、葉や穂に養分を分配する機能を持つ「節」の総ヒ素濃度は、コシヒカリの約1/16と著しく低い特徴を持つ(図1b)。すなわち節は無機ヒ素の玄米への移行を抑える防御壁と考えられ、高ヒ素変異体はその防御システムが失われている。
  • 高ヒ素変異体は、ファイトケラチン合成酵素遺伝子OsPCS1の変異が原因で、この防御システムが失われている。すなわち、OsPCS1は節で玄米への無機ヒ素移行を制御または抑制するキー遺伝子である。
  • OsPCS1が関与する玄米への無機ヒ素移行制御システムは以下のように説明できる。ファイトケラチンはヒ素やカドミウム等の毒性のある金属元素と結合し、無毒化に貢献するペプチド化合物である。ファイトケラチン合成酵素(OsPCS1)は、無機ヒ素が存在することで活性化し、グルタチオンを基質にファイトケラチンの合成を触媒する(図2)。根から吸収された無機ヒ素が節に到達すると、OsPCS1の作用によってファイトケラチンが作られて、無機ヒ素と結合する。その結合物はOsABCC1と呼ばれる輸送タンパク質を介して、節中の液胞内に隔離され、玄米への無機ヒ素移行を抑制する(図3a)。
  • OsPCS1が全身で大量に作られるように設計した遺伝子組換えイネ(品種はコシヒカリ)を作出し、隔離温室内においてポット栽培(使用土壌は1.と同じ)すると、同一条件で栽培した非組換えコシヒカリに比べて、玄米中無機ヒ素濃度が約1/4に低下する(図3b)。

成果の活用面・留意点

  • イネに本来備わっているOsPCS1の働きを強化させることで、コメの無機ヒ素濃度が少ない品種の開発が可能になる。

具体的データ

図1 コシヒカリと高ヒ素変異体の玄米における無機ヒ素濃度(a)と第I節の総ヒ素濃度(b)、n=3(標準偏差);図2 イネのファイトケラチン生合成経路と構造;図3 OsPCS1による節から玄米への無機ヒ素移行の制御モデル(a)とOsPCS1高発現組換えイネの玄米中の無機ヒ素濃度(b)、n=4(標準偏差)

その他

  • 予算区分:委託プロ(次世代ゲノム)
  • 研究期間:2013~2017年度
  • 研究担当者:石川覚、林晋平、倉俣正人、安部匡、小沢憲二郎、高木宏樹(石川県立大)
  • 発表論文等:Hayashi S. et al. (2017) Plant J. 91, 840-848