異なる作用機構の殺虫剤の「世代内施用」が害虫の抵抗性発達遅延に効果的

要約

複数の殺虫剤の「世代内施用」と「世代間交互施用」のどちらが殺虫剤抵抗性抑制に有効かシミュレーションにより検討すると、様々な薬剤タイプ、害虫の生活史の違いにかかわらず「世代内施用」の方が抵抗性発達遅延に効果的であるケースが多い。

  • キーワード:殺虫剤抵抗性、シミュレーションモデル、世代内施用、世代間交互施用
  • 担当:農業環境変動研究センター・環境情報基盤研究領域・統計モデル解析ユニット
  • 代表連絡先: niaes_manual@ml.affrc.go.jp
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

殺虫剤抵抗性害虫の出現を抑えるための技術として、異なる作用機構を持つ複数の殺虫剤の使用が有効とされているが、複数の殺虫剤を対象害虫の世代期間内に同時に施用する「世代内施用」と、世代期間ごとに交互に施用する「世代間交互施用」の2つの組み合わせ方法(図1)が提唱されており、どちらが一般に効果的であるか議論が分かれている。ほ場での薬剤試験等による検証が難しいため、様々な害虫タイプと実際の農業現場を想定した網羅的なシミュレーションを行うことにより、これを明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 本シミュレーションは以下の想定で実施する。(1)殺虫剤は作用機構の異なる、浸透移行性薬剤2剤または非浸透移行性薬剤2剤のいずれかを用いる。「世代内施用」では各世代・齢期の選抜において、2剤を同時に同じ濃度で用い、「世代間交互施用」では、害虫一世代ごとに2剤を交互に使用する(図1)。(2)薬剤に暴露される時期は、幼虫期、交尾前成虫、交尾後成虫の3つを組み合わせた7パターンとする。(3)一部の害虫は交尾のために、殺虫剤を使うほ場と、殺虫剤を全く使用しない周辺環境との間を移動する。(4)他の要因として抵抗性遺伝子の優性度、および周辺環境の大きさ(面積比)を考慮する。(5)殺虫剤暴露前の害虫の集団に抵抗性遺伝子が0.1%の初期頻度で含まれると仮定して、1世代ごとに遺伝子頻度の上昇を計算し、ほ場に生息する集団の半分を占めるまでに要する世代数を算出する。
  • 抵抗性遺伝子が、ほ場に生息する集団の50%に達するまでの世代数は、殺虫剤タイプ、成虫の移動時期、薬剤暴露パターン、そして「世代内施用」と「世代間交互施用」の組み合わせにより異なる(図2、3)。
  • チョウ目等、もっぱら幼虫期に薬剤に暴露され、成虫が交尾直前に移動する害虫種では、浸透移行性薬剤でも非浸透移行性薬剤でも「世代内施用」の方が、抵抗性発達が遅れる(図2[1]、3[3])。すなわち「世代内施用」が常に効果的である。
  • 幼虫期から成虫期にかけて薬剤に暴露され、成虫が交尾前後の両方で移動するハムシやゾウムシなどコウチュウ目害虫では、浸透性薬剤(図2[2])には「世代間交互施用」が、非浸透移行性薬剤(図3[4])には「世代内施用」が効果的なケースもある。

成果の活用面・留意点

  • 有性生殖を行う害虫における薬剤抵抗性管理を考える上での基礎的な情報として活用できる。
  • 農林水産省委託プロジェクト「ゲノム情報等を活用した薬剤抵抗性管理技術の開発」の中で、室内実験などを通じて世代内施用の有効性を検証中である。
  • 有効性の確認と同時にどのように既存の防除暦の中に組み込めるか検討する。

具体的データ

図1 「世代内施用」と「世代間交互施用」;図2 シミュレーション結果(浸透移行性薬剤);図3 シミュレーション結果(非浸透移行性薬剤)

その他

  • 予算区分:交付金、委託プロ(次世代ゲノム)
  • 研究期間:2014~2017年度
  • 研究担当者:山中武彦、須藤正彬
  • 発表論文等:
  • 1)Sudo M. et al. (2018) Evol. Appl. 11(2):271-283
    2)Takahashi D. et al. (2017) Evolution 71(6):1494-1503