草地更新に伴う土壌攪乱が更新作業期間中のCO2放出量に及ぼす影響

要約

草地更新に伴う土壌攪乱は、採草地や放牧地において一時的に大きなCO2放出を引き起こすものの、反転耕起から鎮圧までの間の正味CO2放出量には有意な影響を及ぼさない。

  • キーワード:CO2フラックス、完全更新法、チャンバー法
  • 担当:農業環境変動研究センター・気候変動対応研究領域・温室効果ガス削減ユニット
  • 代表連絡先: niaes_manual@ml.affrc.go.jp
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

永年草地では、利用年数の経過に伴って土壌や植生の条件が悪化し、牧草生産性が徐々に低下する。この低下した生産性を回復させる目的で、数年~10年程度の間隔で草地更新(耕起と再播種)が行われる。一般に、耕起等の土壌攪乱に伴って多量の二酸化炭素(CO2)が放出されると考えられるため、草地更新時の炭素動態を把握することは永年草地におけるCO2の吸排出量を評価する上で不可欠である。しかしながら、草地更新時の炭素動態に関する情報は、これまで国内外を問わずほとんど得られていない。本研究は、チャンバー法を用いたCO2フラックス測定に基づき、草地更新による土壌攪乱が更新作業期間中のCO2放出量に及ぼす影響を明らかにし、温室効果ガスインベントリの精緻化に資することを目指したものである。

成果の内容・特徴

  • 試験を行った草地は、関東北部のオーチャードグラスおよびイタリアンライグラスを主体とする採草地(2.4ha、化学肥料のみで管理)および放牧地(0.5ha、化学肥料のみで管理、草地更新時に堆肥を施用)である。いずれの草地についても土壌は褐色低地土である。また、評価を行った更新法は完全更新法であり、更新を行った時期は秋季である(図1)。土壌攪乱の影響評価は、更新区(全ての更新作業を行う区画)と圃場の一角に設けた非攪乱区(反転耕起から鎮圧までの作業を行わない区画)におけるチャンバー法の測定値の比較に基づいている。
  • 採草地、放牧地ともに、反転耕起直後に土壌からの大きなCO2放出(14.5-24.0μmol m-2s-1)が認められるが、その後5-6時間でCO2放出量は急激に低下する(図2)。砕土直後にも一時的に大きなCO2放出(7.4μmol m-2s-1)が起こる場合がある。しかしながら、反転耕起から鎮圧までの間の正味CO2放出量には、両草地とも更新区と非攪乱区の間に有意差が認められない。

成果の活用面・留意点

  • 現状の日本国温室効果ガスインベントリには草地更新の影響として生体バイオマスすき込み効果しか反映されていないが、本成果は、土壌攪乱や生産量変化といった草地更新の総合的な影響を更新法や気候区分に応じて反映させた炭素動態モデルの作成、および、それを基にした温室効果ガスインベントリ精緻化のための基礎的な知見となる。

具体的データ

図1 草地更新(完全更新法)の作業手順;図2 草地更新前後のCO2フラックスの推移

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2007~2017年度
  • 研究担当者:松浦庄司、中尾誠司、寳示戸雅之(北里大)
  • 発表論文等:Matsuura S. et al. (2017) J. Agric. Meteorol. 73(4):174-186