東南アジアの潅漑水田における節水型水管理AWDによるメタン排出削減
要約
表面水深を指標として実施する水管理手法であるAWD(Alternate Wetting and Drying)は、東南アジア4地点の潅漑水田におけるメタン排出を、常時湛水と比べて、平均で31%削減する。
- キーワード:温室効果ガス、温暖化緩和策、水田水管理、排出係数、土壌炭素
- 担当:農業環境変動研究センター・気候変動対応研究領域・温室効果ガス削減ユニット
- 代表連絡先: niaes_manual@ml.affrc.go.jp
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
国際稲研究所が開発した節水を目的とする水管理技術であるAWD(図1)は、アジアを中心とする水稲生産国において普及活動が展開されている。農研機構(旧農環研)では、国内で行われている中干しの期間延長が、水稲収量を減らすことなく、温室効果ガスであるメタン(CH4)のさらなる排出削減に有効であることが実証してきた。中干し延長の応用として、AWDも節水に加えて、水稲収量を維持しつつCH4の排出削減を実現できると考えられるが、アジアの多様な環境条件における定量的な効果は十分に把握できていない。
そこで本研究では、東南アジア4地点(ベトナム・フエ、タイ・プラチンブリ、フィリピン・ムニョス、インドネシア・ジャケナン)おいて3年間の圃場実験を実施し、乾季作と雨季作の年2作の潅漑水田におけるAWDの効果を、水使用量(潅漑水+降水)、水稲生産性、そして温室効果ガス排出の観点から評価する。
成果の内容・特徴
- 乾季作では表面水深の調節が容易であるに対して(図2)、雨季作では地点・気象条件によっては排水実施が困難な状況が生じる。栽培期間中の水使用量は、AWDの実施により常時湛水に比べて乾季作では6-47%、雨季作では6-17%減少する。
- 各地点の代表的な水稲品種を用いた収量は、作季に関係なくAWDを実施しても低下しない。
- 栽培期間中の一日あたりCH4排出量(排出係数)は、土壌特性や肥培管理によって地点間で大きく異なるが(図3)、AWDは排出量に関わらずCH4の排出削減に有効である(図4)。
- 常時湛水に比べた場合のAWDによるCH4排出削減率は、4地点平均で31%(95%信頼区間23-39%)であり、IPCCガイドラインに示される複数排水の基準値48%(誤差幅34-59%)よりもやや小さい。今回得られた値は、AWDを完全に実施できる理想的な条件だけではなく、天候など現実的な制約を反映した、より実際に近い削減率である。
- 作土層中の土壌炭素・窒素含有率には、3年間の実験を通じてAWDの実施による影響は見られず、二酸化炭素排出増加や地力減少への影響は認められない。
成果の活用面・留意点
- 今回得られたCH4排出係数やAWDによる削減率は、同様の環境条件や肥培管理を行う国・地域において、温室効果ガスインベントリ作成に利用できる。
- AWDの平均的なCH4排出係数や削減率は、2019年に予定されているIPCCガイドラインの部分改訂において、採用が期待できる。
- AWDの実施によって一酸化二窒素の排出は増加する可能性があるが、窒素施肥時やその後に湛水を維持することで、その排出を最小限に抑えることができる。
- AWDの実施が気象条件や圃場立地によって困難な場合には、常時湛水と同等の温室効果ガス排出量と見なす必要がある(本研究ではフィリピンの雨季作が該当)。
具体的データ

その他
- 予算区分:委託プロ(国際連携による気候変動プロ)
- 研究期間:2013~2017年度
- 研究担当者:南川和則、常田岳志、八木一行、Agnes Tirol-Padre(国際稲研究所)、Dang Hoa Tran(ベトナム・フエ農林大学)、Kristine Samoy-Pascual(フィリピン稲研究所)、Amnat Chidthaisong(タイ・キングモンクット工科大学トンブリ校)、Ali Pramono(インドネシア農業環境研究所)
- 発表論文等:
1)Tirol-Padre A. et al. (2018) Soil Sci. Plant Nutr. 64(1):2-13
2)Setyanto P. et al. (2018) Soil Sci. Plant Nutr. 64(1):23-30
3)Chidthaisong A. et al. (2018) Soil Sci. Plant Nutr. 64(1):31-38
4)Sibayan E.B. et al. (2018) Soil Sci. Plant Nutr. 64(1):39-46